2014-08-21

酷い爺さんの意外な一面

俺の爺さんは酷い人だった。毎日酒ばっか飲んでいた。

そんなに酒に強いわけでもないが、日本酒を1日に1升飲むこともあったし、多い時で2升飲んでいた。

まあ、2升飲んだときは、排泄物垂れ流しで家の中が修羅場になるんだが。

仕事をサボって朝から飲むこともあったので、あまりシラフの時は見たことがない。

近所の道路でひっくり返って寝てる時もあった。死んでるのかと思った。

酒癖も悪い。家のガラスを素手で割る。もちろん手は血だらけ。

婆さんに殴られる。柱で頭を打つ。血だらけで倒れている。

家に帰ってきて倒れている爺さんを見ると、ああまた喧嘩したのか…と思っていた。


若い頃は博打に狂っていたそうだ。遠くまで行商に行って売り上げを競艇でスル。

突然バイクカブ)を買った。競艇か何かで勝ったらしい。しかしそれも近所の人に博打のカタに取られ、3日ほどしか乗れなかったという。

酒場ヤクザ喧嘩を売ることもあったそうだ。言いがかりがすごい。

「お前ヤクザやと思ってえらっそうにしやがって!」いきなり関係ないヤクザにキレる。もちろんボコボコにされる。

免許飲酒運転で取り消された。

挙げればきりがない。


本当に酷い爺さんだ。でも最近意外なことが分かってきた。

たまに近所の寄合や、最近では遠い親戚の家に初盆で行った。

そういう場所での爺さんの評価は高い。

「俺はあんたところの爺さんに酒を教えてもらったんだ。俺の酒の師匠だ。」

こういうセリフを何度聞いたかからない。

意外と周囲の人たちからは慕われていたようだ。


あと、婆さんとは毎日のように文字通り血を見るような喧嘩をしていた。てっきり仲が悪いものだと思っていた。

爺さんは酒の飲み過ぎのせいかは分からんが、現在は寝たきりで動くことも飯食うことも話すこともできない。

老人ホームに入っている。

意外だったのは婆さんの行動だ。毎日見舞いに行っている。何があっても行く。

俺がいつ見舞いに行っても熱心に世話をしている。こんな献身的な人だったのかと婆さんを見直しつつも、そこまで愛されていた爺さんを羨ましくも思う。


酷い爺さんだったが、そういや小さいときから俺にだけはやさしかった気がする。

一緒に酒を飲みたかったが子供なのでそれほど飲めず、一口もらう程度だった。

大人になったら一緒にガブガブ飲もうと思っていた。

一度だけ、大人になってから爺さんの酒飲み友達が家にやってきた。

体が限界にきていた爺さんはほとんど飲まなくなっていたが、その日は飲みまくった。

俺も散々飲まされ、潰されてしまった。

でもそれが爺さんと飲んだ最初最後だった。間もなく爺さんは医者に酒を禁止され、飲んだら明らかにヤバい状態になった。

もっと一緒に飲みたかった。爺さんが何故あんなに周りから慕われるのか、その理由が少しでも分かるような気がしたからだ。

しかし、あの頃の爺さんはもういない。老人ホームのベッドで動くこともできず、うめき声を発することしかできないのだから

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