俺の爺さんは酷い人だった。毎日酒ばっか飲んでいた。
そんなに酒に強いわけでもないが、日本酒を1日に1升飲むこともあったし、多い時で2升飲んでいた。
まあ、2升飲んだときは、排泄物垂れ流しで家の中が修羅場になるんだが。
仕事をサボって朝から飲むこともあったので、あまりシラフの時は見たことがない。
近所の道路でひっくり返って寝てる時もあった。死んでるのかと思った。
酒癖も悪い。家のガラスを素手で割る。もちろん手は血だらけ。
婆さんに殴られる。柱で頭を打つ。血だらけで倒れている。
家に帰ってきて倒れている爺さんを見ると、ああまた喧嘩したのか…と思っていた。
若い頃は博打に狂っていたそうだ。遠くまで行商に行って売り上げを競艇でスル。
突然バイク(カブ)を買った。競艇か何かで勝ったらしい。しかしそれも近所の人に博打のカタに取られ、3日ほどしか乗れなかったという。
酒場でヤクザに喧嘩を売ることもあったそうだ。言いがかりがすごい。
「お前ヤクザやと思ってえらっそうにしやがって!」いきなり関係ないヤクザにキレる。もちろんボコボコにされる。
挙げればきりがない。
本当に酷い爺さんだ。でも最近意外なことが分かってきた。
「俺はあんたところの爺さんに酒を教えてもらったんだ。俺の酒の師匠だ。」
意外と周囲の人たちからは慕われていたようだ。
あと、婆さんとは毎日のように文字通り血を見るような喧嘩をしていた。てっきり仲が悪いものだと思っていた。
爺さんは酒の飲み過ぎのせいかは分からんが、現在は寝たきりで動くことも飯食うことも話すこともできない。
老人ホームに入っている。
意外だったのは婆さんの行動だ。毎日見舞いに行っている。何があっても行く。
俺がいつ見舞いに行っても熱心に世話をしている。こんな献身的な人だったのかと婆さんを見直しつつも、そこまで愛されていた爺さんを羨ましくも思う。
酷い爺さんだったが、そういや小さいときから俺にだけはやさしかった気がする。
一緒に酒を飲みたかったが子供なのでそれほど飲めず、一口もらう程度だった。
大人になったら一緒にガブガブ飲もうと思っていた。
一度だけ、大人になってから爺さんの酒飲み友達が家にやってきた。
体が限界にきていた爺さんはほとんど飲まなくなっていたが、その日は飲みまくった。
俺も散々飲まされ、潰されてしまった。
でもそれが爺さんと飲んだ最初で最後だった。間もなく爺さんは医者に酒を禁止され、飲んだら明らかにヤバい状態になった。
どんな救いようのないDQNでも切り取り方を工夫することで無理矢理美談を仕立てあげることは可能というお話でした。
増田漁業組合組合員による作品です
こういうのを美談と思って書いてるの?自分に娘がいたとして、こんな親父みたいなのと結婚したら泣けてくるけど。