2014-06-02

トヨタ法人税を払っていなかったという件について

http://www.j-cast.com/2014/05/27205857.html

この記事がホッテントリに入ってブコメでもちらほら怒りの声が上がっていますが、いくつか突っ込みどころのある記事でもあります

タイトルでどんなカラクリがあるのかと煽っていますが、まあそうたいしたものでもありません。

カラクリ理解するために必要な知識は、

法人税の課税は単体ベース

・受取配当金益金不算入

・欠損金の繰越控除

あたりでしょうか。ざっくりみてみましょう。

法人税の課税は単体ベース

法人税の課税は基本的に単体決算に対して行われますトヨタが連結でいくら利益を出していても、日本市場が不調で単体赤字なら日本法人税を納めることはありません。

また海外子会社海外利益を上げたら海外で納税するのは当然のことです。

記事ではここのところが誤解されています。(意図的かもしれませんが)

はいえ、基本的利益があって、配当している上場企業法人税を払っているはずだ。トヨタ2009年3月期の税引き前当期利益は5604億円の赤字だったので、このとき法人税が払えないのはわかる。しかし、103月期のそれは2914億円の黒字。以降、5632億円、4328億円、13年3月期には1兆4036億円もの黒字を計上してきた。法人税を納められないほど「体力」がないわけではない。

連結上いくら体力があっても日本利益が出ていないならば法人税はとれません。

・受取配当金益金不算入

端的に言うと、これは二重課税回避のための規定です。配当金の支払原資は企業内部留保で、これは法人税課税後の利益の蓄積です。

これを配当金を受け取った側で課税すると課税後利益さらに課税することになり、これを是正するためにあります

個人の所得税配当控除も同じ理由で規定されています。つまり大企業優遇でもなんでもありません。

・欠損金の繰越控除

赤字となった年度は法人税がかかりません。しかしその赤字を切り捨てて黒字になった年度に即課税すると、毎期平均して利益をあげている企業と、赤字と黒字を繰り返している企業とで税額に差が出てしまます

例えば平均的な利益を上げるA社と、浮き沈みの激しいB社があったとして、欠損金の繰越控除がなかったとすると、

A社の各年度決算が(利益:税額)=(100:30)、(100:30)、(100:30)、(100:30)、(100:30)=(500:150)であったとして、

B社の各年度決算が(利益:税額)=(200:60)、(-300:0)、(200:60)、(-100:0)、(500:150)=(500:270)という場合

5年間のトータルの利益が同じでも浮き沈みのある企業は税額が多くなってしまます

これを是正するのが欠損金の繰越控除で、期限を決めて黒字で過去赤字を補てんした分には法人税がかからなくするものです。

B社の場合でこれを行うと(利益:税額)=(200:60)、(-300:0)、(200:0)、(-100:0)、(500:90)=(500:150)

となりA社と同じ課税関係となります。これも大企業優遇とかそういうものではありません。

トヨタ単体の決算をみる

さて、この3点を抑えるとカラクリは大体わかってしまます

まずトヨタの単体のここ7年の税引前利益

平成20年3月期 1,580,626百万円

平成21年3月期 182,594百万円

平成22年3月期 -77,120百万円

平成23年3月期 -47,012百万円

平成243月23,098百万円

平成25年3月期 856,185百万円

平成26年3月期 1,838,450百万円

となっていますリーマンショック以降ガクッと利益が落ちていますが、赤字額は22年と23年の1241億円ほど。

それなら25年には回収し終わって法人税がかかるはずだろと思うかもしれませんがそうではありません。

次にこの7年間の受取配当金の額を見てみます

平成20年3月期 375,554百万円

平成21年3月期 388,925百万円

平成22年3月242,562百万円

平成23年3月期 331,293百万円

平成243月期 475,206百万円

平成25年3月期 511,139百万円

平成26年3月期 556,561百万円

トヨタ海外子会社利益を上げているので受取配当金額が巨額です。

先ほども説明したように、受取配当金には課税しないため、実際の課税所得を推定するためには、これを税引前利益から除く必要があります

ただ、受取配当金ならすべてが益金不算入ということでもないので、便宜的に受取配当金の8割を税引前利益から除いてみるとこのような金額になります

平成20年3月期 1,280,183百万円

平成21年3月期 -128,546百万円

平成22年3月期 -271,170百万円

平成23年3月期 -312,046百万円

平成243月期 -357,067百万円

平成25年3月期 447,274百万円

平成26年3月期 1,393,201百万円

赤字額が大幅に拡大しました。22年と23年だけでなく21年と24年も赤字で、累計額は1兆円を超えます。これでは25年に数千億円の利益を出したところで賄いきれません。

今年になってようやく繰越欠損金の処理が終わり、単体で納税できるようになったというのが実際のところと見受けられます

一方で、じつは法人税にはさまざまな「控除」項目がある。たとえば、欠損金の繰越控除額(期間7年、大手企業場合は80%)。ただ、2010年以降利益を上げているので、これだけでは「ゼロ継続」の説明はつかない。

その点、記事ではこのように述べられていますが、欠損金の繰越控除だけでほぼ説明がついてしまうのではないか、というのが私の所感です。

ちなみにですが、記事で述べられている研究開発費の税額控除もある、ということですが、この税額控除法人税額の30%までという規定があるため、法人税を納めていなかった期間に関してはまったく関係ありません。

最後

この話題から日本法人税が高いなんて大ウソ」とか「大企業ばかり優遇して中小企業が~」という議論に持っていくのは無理筋に思います

税制上は中小企業大企業より優遇されている点も多いですし、なんとなくのイメージ大企業や国を叩いても相手には届きようもありません。

ただ大企業に有利な税制がないわけではないので、その優遇が何を意図してのことなのかを理解して、

それに納得がいかないとき個別論点として問題視していくのがいいのではないかなと思います

  • せっかく解説してもらって悪いけど、あれを叩いてた層は国と大企業に文句言えればなんでもいい層だから伝わらないと思うよ。 ブコメとかJカスのコメントでも指摘してる人いっぱいい...

  • 大企業というか、多国籍企業はある程度、どこの国の子会社で利益を計上するかを恣意的に調整できるというのがミソなんじゃないのかなぁ。 日本で利益トントンにして、なるべく法人...

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