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事の発端は大宮駅でのある出来事。
ドアが締まる直前に乗ってきた二人。ひとりは典型的サラリーマン、40代後半。
もうひとりはビームスあたりのセレクトショップで働いてそうなシュッとした若者、20代後半。
サラリーマンが既に95%くらいのスペースに先に乗り込み、
98%となった状態で若者が乗ってきた。
その時に軽く足がぶつかっただか、蹴っただかで、
「足当たってんだけど」
「なんで蹴ってんだよ」
若者は「あ、すいません」と軽いながらもそこそこ誠実な対応を見せたものの、
そのイチャモンは止むことがなく、徐々にヒートアップするサラリーマン。
大宮駅出発からの10分間、極めて険悪なムードのまま湘南新宿ラインは走行を続け、
そして、ドアが開く直前、
サ「お前ちょっと外でろよ」
若「おう、やってやるよ」
というわけでドア開放とともにストリート(ホーム?)ファイトスタート。
あっという間に先制点を奪うも、サラリーマンも当然それで終わる(終われる)わけもなく、
面倒なサラリーマンも、血気盛んな若者もいない。これでいつもどおりの通勤だ、と。
「ドアがしまりまーす」
観客の誰もが想像していなかったことが起きる。
サラリーマンと若者が、取っ組み合いをしたまま元乗っていたドアに向かってきたのだ。
そして、肩で息をしながらも、ふたりはギリギリで乗り込んでしまった。
車内の雰囲気が一変する。
(「え、取っ組み合いのケンカってそういうタイミングで終わるの?」)
(「そうか、会社に遅刻したくないっていうかできないから乗ったのね……。」)
(「ちっちぇ~……。」「っていうか日本人……。」)
ともあれ、全員が心のなかで「乗るんかい!」ってツッコんだと思う。
そして物語は第2章へと進んでいく……。
取っ組み合いのまま乗車したわけで、当然また言い争いは続く。
そして、本当の衝撃は、このあとに訪れた。
サ「お前ふざけんなよ頭打って血出てるじゃねえかよどうしてくれんだよ」
若「え……?」
血はひとつも出ていない。
サ「すりむいて血が出てんだよどうしてくれんだよ」
サ「会社行ってもどうやって説明すりゃいいんだよ」
若「知らねーよそんなもん……。」
車内は「またこのままの感じで赤羽まで行くのか……。」という絶望に包まれていた。
最悪な通勤である。そして、サラリーマンから衝撃の一言が発せられる。
サ「じゃあお前、絆創膏代払えよ!」
若「え……?」
(「え……?」)
若者も他の乗客も想定外すぎる答に戸惑った。車内には多数の「?」が浮かんだ。
若「え、絆創膏っていくらっスか……。」
サ「絆創膏だよ! 500円くらいするだろ!」
若「500円……。」
(「500円……。」)
慰謝料みたいな話になるかとおもいきや、500円である。サラリーマンのランチ価格である。
っていうかどう考えてもランチ代浮かそうと思ってるだろ。
全く着地の見えないまま走り続ける電車。
ストリート(ホーム)ファイト以外では防戦一方だった若者が、ついに逆襲に出る。
若「500円もしねーし。100円でいっしょ」
正論である。絆創膏が百均に売っているかどうかはこの際どうでもいいとして、
確かに500円はぼり過ぎな気がする。そして、サラリーマンから出た言葉は、
若者と、その場に居合わせた乗客全員に爆笑を届けることになる。
サ「100円じゃねえよ! 105円だよ! 消費税いるだろうが!」
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駅に停車する度にホーム出てファイトしてまた戻ってくるのを繰り返す…話かと思ったら違った