習作スケッチ
条件:
16時19分から17時19分までの1時間以内に書きあげる超短編
女子がスタバでカフェラテを頼む確率は70%を超えてると思う。
けど、いまぼくの目の前でカフェラテを飲んでいるのが女子かといわれると70%の確率で男子だ。
「ウィッグ、めずらしい?」
こともなげに、っていう単語、こういうときに使うんだな、とか思った。
「似合ってると思います」
そう言うと、くくるはけらけら笑った。
「だっよねーほんと、だと思ってたー」
くくるはおなじ調子で、蛍光グリーンと蛍光ピンクの爪を自慢した。
「これジェルネイルっていって、両手で2万円くらいしてさ。2万円だよ?かわいいけど、かわいい税のっけすぎじゃない?経済なんとか大臣も考えてくれないかな」
黒いメガネに黒いカーディガンに白いブラウス、葬式帰りみたいなカッコのぼく。
きれいなパールグレーのブラウスに、ゴージャスな毛皮のマフラーのくくる。
嫌でもくくるが目立つ組み合わせだった。
なんかのコンテストならぼくが引き立て役になって、くくるが優勝まちがいなし。
思わずまわりが気になってちらちら目だけ動かしたけど、だれもくくるを見てない。
ぼくだけがキョドったフクロウみたいで、なんかかえって死にたくなった。
新宿ルミネに着てる女子たちにとって、くくるの登場なんてたいした事件じゃないのかな。
それとも、見て見ぬふりをしてるだけなのか。
ほんとに気にしていないのか、見なかったことにしてるのか、おしゃべりしてる女子たちの顔からは分からない。
くくるのくすくす笑いが聞こえてきて、さっと意識がもどってきた。
「えっなに?すいません、なにか言いました?」
くくるは笑いながらカツラをかぶりなおし、マグカップを片手に言った。
「飲んだらちょっと歩こ」
「え、まだどっか行くの?」
「だってぼく中2だよ、おカネ持ってないし」
「わたし21歳で、何もしてない。正確には女子しかやってない」
くくるはそう言って歯をいーっとすると、マグカップをかつーんと置き、旅行かばんみたいに大きなショルダーバッグをかついで、くいくいっと手まねきした。
そう言って、くくるはエスカレーターに飛びのった。
青いミニスカートから、うそみたいに細い足がしゅっと流れていた。
もう秋で、しかも雨なのに、くくるを見ていると、なぜかいまがまだそういう季節だったような、タイムスリップした感じがする。
なぜか急にいけないことをしてるような気がして、どきどきしてきた。
ただネットで知りあった人とスタバで会ってただけなのに、ほんとは絶対に親や学校に内緒にしたらいけないことを、こっそりやってしまったみたいな気がした。
「くくるさん」
ちょっと大きな声を出すと、くくるはエスカレーターからこっちを見上げた。
何も言えないままくくるのそばに歩いていくと、くくるはぼくの手を握った。
からだが思わずきゅっとする。手をふりはらえずにいると、くくるは手に手をのせた。
「つっめたいでしょ、わたしの手」
たしかに手は冷たかった。けど、それよりも手のひらが大きいこと、それと、くくるの目がきらきらLEDみたいに光ってることにびっくりした。
「冷たいですね」
小さい声で返事しながら、くくると一緒にいる自分がふしぎに思った。
くくるは――この人は、ふだんからこういうことをしているんだろうな、と思った。
もし誰かがくくるに恋をすることがあったら、その誰かは、この大きな手に何を期待するんだろう。
ぼくの手を握っている手で、どこに連れていかれてしまうんだろう。
ぼくはぱっとくくるの手を払った。
くくるは一瞬アニメっぽく目を丸くしたあと、けらけら笑って、ショルダーバッグをかつぎなおした。
「ごめん、もうやんない」
くくるはそう言い、ぼくは何も答えられない。
エスカレーターの手すりをぎゅっとつかんだまま、くくるの方を見ないよう、自分の安っぽいパンプスを見つめつづけた。
16:58 終了
反省点:
→はじめにコンセプトだけではなく、ざっくりとストーリーを決める
・人物が2人しか登場しない
→家族、友だち、同僚、犬、恐竜、神、霊、火星人、何でもいいから関わらせる
・ストーリーの背後が見えない
→出会いのきっかけとか、なぜそこにいるのかとか分かるようにする
・ワンシーンのキュートさが活かされていない
・結局なんなの、男の娘なの?