ある雨の日に出掛けようとしたとき、初めて異変に気がついた。
地味な傘ばっかりささってる傘立てを華やかにしているはずの一本のピンクの日傘がそこにない。
何故?いつから?ここじゃない家の中のどこかにあるのか?
ないと困る。母親に買ってもらったそれなりの値段がするブランドものの傘である。
失くした?いつ?どこで?
申し訳ない気持ちや、怒られる恐怖や、喪失感、
何より失くした事にすら今まで気がついていなかった自分の脳みそにただ、ただ絶望する。
何故こんなことに。
いつどこで失くしたかもわからないものが、見つかるとは思えない。
もうダメだ。
とりあえずブランド名で検索、財布やら何やらは出てくるけど傘の情報はほとんどないし、
もうダメだ。
この不良品で使い物にならない脳みそをもう一度使って考えてみる。
何処で失くしたか。
基本的に折り畳み傘を使うし、自転車での移動が多い。
この3つが忘れる可能性が高いと思われる。特に前二つが可能性として考えやすい。
最寄り駅沿線が一番可能性が高い。
鉄道会社のホームページを見ると3日保管後、警視庁遺失物センターに保管されるとある。
警視庁遺失物センター…どこで落としたとしても最終的にそこに集まるのか?
だとしたら最初からそこに問い合わせれば事足りるのではないか。
なんせこの大都会東京のあらゆる場所からの遺失物が集まるところなんでしょ??
傘なんて何万本あるんだ?
もう一つの可能性、よく使うバス会社のホームページを見てみる。
遺失物は営業所で保管。営業所は近いぞ!とりあえず営業所に行ってみるか近いし。
窓口が非常に狭い。客が2人いたら満員である。
窓口のお兄さんに用件を伝えると奥にいったっきり暫く出てこない。
「いつ頃失くされました?」
「色は?」
「ピンクです」
ああ、ごめんなさいごめんなさいもういいです諦めます
「あの、ない、ですよね?」
「いや…」
(いや?)
「一件だけそれっぽいのがあるんですよね。骨は多いですか?」
骨の本数なんて覚えちゃいないが(聞かれるとは思わなかった)
「なるほどね」
骨の本数なんて記録してるんだろうか。特徴のポイントとしては盲点だった。
「30日に届けられたもので、日傘じゃなくて普通の傘として届けられてるのですが、取手が薄茶色で、リボンの留め具が付いていませんか?」
!!こっちが伝えてない特徴が出てきたぞ!これは期待できるかもしれない。しかし30日って!全然違うじゃないか自分!
「そうです!」
「警察署に届けてあるのですが、結構前なので、さらにそこから飯田橋の遺失物センターに送られてるかもしれません。とりあえず問い合わせてください。」
受領番号、管理番号、警察署の電話番号が書かれた手書きのメモをくれた。ありがとうお兄さんありがとう。
しかしこれが本当に私のものじゃなかったら?また振り出しに戻る事になる。まだ喜べない。
ここは電話するスペースもないし、天気も悪かったから、駅まで行ってから警察署に電話をかけてみる。
若い女の人の声で、たどたどしく対応してくれた。即刻伺うことにした。
警察署に行くのは免許証の住所変更のときに来て以来である。確かに遺失物コーナーみたいなのがある。
ほいさ、と出てきた傘は私が求めていたそれである。おまえこんなところにいたのか!放っていてゴメンよ!
遺失物届出書っていうのと、受領書っていうのの2つの書類を書かされた。
この遺失物届出書っていうのを書くのがまず最初にやるべきことだったのかもしれない。
やがて雨が止み、傘を2本持って街を歩くボケ女の姿がそこにあった。
我が家の傘立てに華が戻った。
長い。三行でよろ。
飯田橋の遺失物センターに似たものがあると言われて喜び勇んで行ったら 全然違う物が出て来て凹んで帰ったことあるわw 元増田の傘は見つかってよかったね
元増田です。ありがとうございます。 一旦喜んだ後に、違ってたら落差が辛いですね。 自分は幸運だったと思います。バス会社の人に感謝。