たいした金額でもないけど、あの頃の自分にとっては大金だった。
アクセサリーを選んでいるとき、店員さんにどういうのがいいか聞いて、誕生日石の付いたやつを勧められたけど結構高くて、
もう少し安いのはないか相談して、結局小ぶりの石がついたものにして
「お母様、きっと喜んでくれますよ」
という店員さんの言葉に、セールストークだとわかっていてもちょっと顔がほころんでしまったり。
父親とはあんま話したことなくて、でもとりあえず酒が好きだから、有名な久○田を買った。
暇を見ては帰省して、帰省するたびに近所の有名な和菓子やおいしそうな食べ物を手土産に持って帰ったりして。
家の手伝いはしなかったけど、両親と他愛もない話をして。
俺物欲もそんなに無いから、景品とかが当選したら実家に送ったりしたし、
ポイントの有効期限がもうすぐで切れそうだったりすると、何かもったいないから何かに交換しようと思うんだけど、別に欲しいものもないから、カタログに交換してそのカタログを実家に送付して。
俺、彼女も居ないから、別にどっか行ったからと言って嫉妬してくれる人も居ないんだ。
1人旅行も好きだけど、どうせだったら両親連れて行こうと思って。
今まで俺も含めて数人の子供を、何十年もかけて育ててきたんだから、きっとろくに旅行も行けなかっただろうし。
過去に行けなかった色々な場所に、連れて行ってあげたいなあって。
そうやって、少しずつ自分なりの恩返しをしてきた。
そしたら、ある日、毎月仕送りをして欲しいとメールで言われた。
は?
最初は「俺ら子供が全員巣立っても生活苦しいのか・・・」と思ったけど、生活ぶりを見るとそうでもない。
冷蔵庫の中は常にパンパンだし、電化製品も結構最新のを使っている。
「何に使うの?ちゃんと節約とかしてる?ざっとでいいから毎月の収支教えてよ。改善できる所がないか教えて上げられるかもしれないし」
ってメールしたら
「そんなこと言うんだったらもういい」
って返ってきた。
そしたらしばらくして上の兄から連絡きて
実は今までは上の兄が仕送りをしていたこと、兄が勤めてる会社の方針で職場が配置換え、給与が大幅減額になったせいで仕送りができなくなったこと
だからお前も大変なのはわかるけど、どうか仕送りをしてあげてほしい
ということだった。
で、結局今度は俺が仕送りをすることになった。
ウン万円が、送金されて何の跡形もなく消えていく。
俺がスーパーのチラシを見て特売品を買って、自炊もして、高熱水費も節約して、コツコツ貯めてる金が
特にそれに対する連絡はない。
何に使われているのかも知らない。
毎月毎月、年12回。
年間で数十万円。
数年で軽く3桁は超える額が、俺に何の見返りもなく消えていく。
送られた先で何に化けているのか一切知らない。
これは、親か俺か、どちらかが死ぬまで続くのだろうか。
なんと素晴らしい親孝行だろう。
これが本当の親孝行なんだろうな。
思えば、俺があげたアクセサリーは、2,3回しか付けてるとこ見たこと無い。
ポイントであげた美容製品も、健康グッズも実家に帰った時に見た記憶が無いし、
実家に帰る度に渡す手土産も、別段喜んでる様子もなく、結局俺と兄弟でほとんど食べてる。
旅行の事だけは毎回楽しそうに思い出話をするけど。
結局、物とか気持ちとかより、最終的に一番喜ばれるのは現金なんだ。
今まで自分がしてきた親孝行なんて、結局親孝行してる自分に酔いたいだけの、エゴの塊でしかないものだったんだ。
そう思って毎月送金している。
そうだよな、両親は俺らを育て上げるために何千万という大金をつぎ込んで来たんだから、立派に育った俺らから
ちゃんと回収しなきゃ割りに合わないよな。
そうやって毎月、何の気持ちもこもっていないお金を送っている。
俺の通帳の残高が消えるたびに、親への愛情が少しずつ色あせていく。
固く結ばれた紐が、毎月送金するたびに、少しずつ、少しずつほどけていく。
濃紺な俺の情が真っ白になるのは一体いつだろう。
真っ白になればきっと、こんなことで悩まずに割り切っていられるのだろう。
つい最近、未だに実家に居てプラプラしている下の兄が家に入れている額が俺よりも少ないことを、つい口が滑ったかのように親が漏らしていた。
聞かなかったことにして流しておいた。
上の兄が帰省した際「次はどこに連れて行ってもらおうかな~」と両親が言っていたとメールがきた。
メールに返事はしなかった。
私はあなたのことが嫌いです。
また燃えてまた消えて皆忘れてく。それだけのこと。
他人の人生を食い物にしているのは書き手。登場人物ではない。
感謝も尊敬もする必要ないでしょ。 「親に感謝しないなんて非常識だ」とか思ってんじゃない? そういう無意味な常識に縛られるとそのうち心身の調子崩すよ。
書き手の思う壺にはまってるよ。気に入らない相手を俎上に載せてんの、これ。
こういう書き手はモデルも真摯な読者のことも平気で裏切る。絡まないのが得策。