2013-05-19

ある旧家の没落

もう、あいつと酒を飲むのは無理だなと思った。多分、遠くないうちに昼間の生活にも支障をきたすだろう。高校生のころあんなに輝いてたやつが堕ちていくのを見るのは耐えられない。もちろん、自分だったらあいつ以上に踏ん張れたなんて、とても思えない。それだけに、もう目を背けるしかできないんだよ。

地方の町で旧家の跡取りだったあいつは、人あたりがよくて、スポーツ万能で、頭だって現役でワセダに行けるくらいには良かった。当然クラスの人気者で、ずっとそういう日の当たる場所を歩いていくんだろうとみんな思ってた。バブルは弾けて、地方経済の疲弊はとっくに始まっていたはずだけど、公立とはい比較的裕福な家庭が多い進学校に通う俺たちには、そんなことは全然見えてなかった。

問題は、あいつの家が旧家とはい地主系ではなく商家だったことだ。進学、就職東京10年過ごして帰ってきた時には、状況はもうかなり悪かったらしい。それでもあいつは頑張った。販路の整理と新しい開拓、Webの活用だってから見たらかなりクレバーだったと思うし、新商品開発の方向だって間違ってなかった。ただ、地方の荒廃と大資本の流入のスピードの前には、限られた局面での善戦にすぎなかったというだけの話だ。

「まあな、何もかもチャラにして、東京で一からやれたらなって思うことはあるよ」。飲みながら苦笑して、あいつがそう言ったのは何年前だろう。どんどん押し黙った時間は長くなって、もう意味のある会話はなくなり、ただ飲むために酒を飲むようになった。もう、ここらへんが潮時だろう。身につけた品の良い腕時計と靴がどうしようもない虚飾に見えるほど、夜のあいつは荒んでいる。

なんでこんなことになったんだろうか。

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