その写真を見た瞬間クソ吹いた。
俺がカメラを持って手を伸ばして撮ったであろう写真で、その彼女が後ろから首元に俺に抱き着いてほっぺとほっぺが触れていて、俺は勝ち誇ったようににやついていた。
こんなの全く記憶にない、どんなに頭の中をスキャンしても出てこない。
俺が初めて本気で好きになった思える人で、当時俺は28歳、彼女は19歳だった。
それ以前も何人か付き合ってはいたが、さほど好きになれない人ばかりだった。
なんでそんな好きにもなれない女の子とばかり付き合ってたかというと、ヘタレだったからだ。
自分から告白する勇気もなくて、たまたま手近にいた女の子を話のノリで食事に誘ったりしてずるずるって感じでいつも惰性もいいところだった。
ほんとはもっと可愛くて好きになれそうな女の子はいっぱいいたのに、声をかけるどころか目を合わせることすら出来なかった。
そして、そういう俺の気持ちはあっさりそれら付き合ってた女の子たちに見抜かれて、自然消滅を繰り返していたのだった。
それでも彼女がいたのだからリア充じゃないかと思われるかもしれないが、ちっとも充実などしてはいなかったよ。
いつもいつも、付き合ってた女の子とデートしてる最中ですら、他の可愛い女の子を連れてる男どもが羨ましくて仕方なかったんだ。
その本気で好きになった彼女と出会ったのは付き合う一年前の事。
いわゆる出会い系の走りみたいなとあるサービスを通じてだった。
当時はまだ彼女は高校生で、淫行条例のなかった時代だけども、年の差があり過ぎと思って手を出すまでには至らなかった。
ただ、めちゃくちゃ可愛かった。
会ったのはその時は1度きりで、食事をしただけだ。
それから一年程たって、彼女の方から連絡があって、すぐに付き合うことになった。
たぶん、まともに告白らしきことをしたのは初めてだ。
そして、俺は彼女のことをものすごく大好きになり、すぐに独り暮らしを始めたし、付き合って二か月ほどで結婚しようとさえ思った。
それからしばらくはほんとに充実した恋愛生活を送ったが、半年ほどで別れることになった。
どういうわけか俺と付き合いだして数か月ほどして宗教活動に目覚めたらしい。
さんざん勧誘されたが、俺は決してそれだけは受け入れることはできず、そのことでほとんど気が狂うくらいの状態になって、こんな男はもーあかんと彼女から別れを告げられたのだった…。
それから10年以上の歳月が流れ、例のFBで彼女側からの検索の網に掬い取られる形で再会したわけだ。
そんな過去のこと、ほんとに遠い記憶で覚えていた事柄も脳の奥深く仕舞い込まれていたし、大半の思い出はシュレッダーにかけられて再生不能だった。
上で書いたような事柄も、彼女と再会して色々と思い出した断片を繋ぎ合わせたに過ぎない。
俺は彼女と別れてから割とすぐに知り合った別の人と付き合って、また以前と同じように可愛い女の子を連れている他の男どもを羨ましく思いながら、しかし今度は自然消滅に至らずずるずる結婚し、現在に至っている。
そして、数年前からセックスレスとなり、満たされぬ日々を過ごしてきたわけだ。
多少の悪さはしてきたけども。
残っていた写真で二人で写っているのはただその一枚だという。
「…あっ、思い出した!、そうだそうだ、この時さぁ…」
みたいな感動は全くなかった。
その写真に結び付いた記憶のすべてはシュレッダーダストに消えてしまって、焼却場まで行ってしまったんだ…。
とりあえず記憶はなくしても記録はなくさないでおこうと、その写真はグーグルに預かってもらうことにした。
しかしま、そのリア充ぶりには口の中の唾を全量吐き出すほど吹いたし、自分が信じられなかった。
実は彼女も覚えてないらしく、別れる前後の俺のgdgdぶりに呆れて、いい思い出は全てなくしてしまったらしい。
でも確かに、僕らの間にはそんな輝いた時期があったんだ、と再会した彼女と話してたら…
「うちら記憶の中にはおられへんねんて」
と言いながら、ぎゅーされてキスされたのだった…