2012-09-29

「多様文化保存推進法が可決され、本日より施行される事となりました。」

「おや、いつの間にそんな法律が。」

「一昨年の秋です。」

「まあいい。で、それはどんな法律なのかね。」

「この国で失われつつある様々な文化保全、維持する事を目的とした法律です。」

「それはすばらしい事だ。」

ありがとうございます。つきましては、本法に則ってあなたにお知らせする事があります。」

「何だね。」

「当局で調査いたしましたところ、あなたの曾祖父様はこの国でも希有な生活様式を持つ地方のご出身ですね。」

「む、そうだったかな。祖父さんからそんな話を聞いたことがあったような、なかったような…。」

「そこで本法に則って、あなたにはこの文化未来の担い手となっていただくことになりました。」

「ほう、私が。」

はい。まずはあなたの曾祖父様がお住まいだった地域移住していただきます。」

「何だって。」

「そして、あなたとそのご家族には、あなたの曾祖父様と同じ生活様式を送っていただきます。」

ちょっと待て。曾祖父さんが送ってた生活なんて知らないぞ。」

「ご心配なく。こちらで既に可能な限り調査済みです。文化多様性保全委員会が住居や家財道具、食生活をはじめとする生活手段を網羅し支給いたします。あなた方はこれらを受領し、委員会が指定する生活様式を遵守するだけで結構です。」

「それは困る。私には今の仕事もあるし、曾祖父さんが住んでいた地域というのは、確か道路もないような山奥だったはずだ。」

「その通りです。近隣の市街地との接触も殆どなく、完全な自給自足を成立させていた希有な生活様式の方々でした。故にこの法律名誉ある適用第一号となりました。」

「そんな場所私たちに行けというのか。今の生活も何もかも捨て去って。」

「そういう法律ですので。」

「ふざけるな。断固拒否する。」

「残念ながら免除の制度はございません。本日の通知から六ヶ月以内に移住を完了しないと刑事罰が科されることになります。」

「そんな理不尽な事があってたまるか。」

しかし、本法は世論調査において八十四パーセントという高い支持を得ており、議会でも全会一致で可決、成立しております。」

「私や家族人権はどうなるんだ。文化的な最低限の生活を送る権利が保障されているはずだ。」

国民文化的な生活を送るためには、社会に多様な文化存在する事が不可欠なのです。これを拒む事は文化多様性精神に反する事になります。」

畜生、誰がこんな法律を作りやがったんだ。次の選挙ではそいつらには絶対に投票しないからな。」

「その心配無用です。あなた方は本日の告知をもって公民権は停止されました。あなたの曾祖父様の生活において、選挙制度は無縁でしたので。」

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