2012-07-28

いじめで人を殺し損ねた

いじめで人を殺し損ねた。

ある時はとっくみあいになって目を潰すつもりでケリを入れたし、

ある時は舌を噛み切らせるつもりで頭突きをかました。

殺すつもりだった。

だけど彼らは大したケガはしなかったし、おかげで僕は「少年A」にならず、

はいじめなんてなかったかのような、平穏な暮らしをしている。

そう、僕はいじめられていた。

相手を殺すことでしかいじめを解決できないと思っていた。

解決? 

少なくとも、いじめられている事実をできるだけ僕のプライドが傷つかないように公表して、

今後一切のいじめを断つには、それしかないと思っていた。


親になんて恥ずかしくて相談できないし、解決にならない。

先生だって、なんて言えばいい。

今でもそうだが、昔から口べたな僕は、

もし先生に「○○君らにいじめられています」と言ったとしても、

その後どんな言葉を続ければ、この苦しみが理解してもらえるのかわからなかった。

ちっぽけな自尊心と、無理解への恐怖は、相手と同じ、いやそれ以上の暴力として発揮するしか突破口がないと思った。

いじめといっても、マンガニュースで出て来るような葬式ごっこやら上履きが消えたり、

というのはなかったが、毎日のように暴力を奮われていた。

学校は楽しかった。それなりに仲のいい友達もいて、でも一部に暴力を奮ってくる奴がいる。

しかに「じゃれあってくる」奴もいた。彼らのことは僕も嫌いじゃなかった。

たまにイラっとくることもあったが、たしかに彼らは僕と遊んでいたし、

彼らなりの愛情表現として寝技をかけてきたりヘッドロックをかましてきたりした。

それとは違って、サディズムめいた、小動物を殺さない程度にいたぶりたがるような、

「俺はお前より上なんだ」と自尊心を確認するために暴力をふるってくる奴らがいた。

特にしつこい奴は、殺したかった。


当時はそんな言葉はなかったが、「スクールカースト」は非常に意識していた。

AランクからいじめられるBランクの奴を、Cランクの僕はAランク同様見下していたが、

Bの彼からすれば、Cの僕から見下されるいわれはない。

僕はBの彼、Mのことが嫌いだったので(自慢話が多いMは多くの人から嫌われていた)、

彼を避けていたが、Mの方からちょっかいを出して、

やたら僕を見下す発言をしてきたのは、そうやって高い自尊心癒していたのだろう。

Bの彼とは一度部活中にとっくみあいケンカになり、

ノースサウス・ポジションというよりは、お互いの足が顔に位置する態勢になった。

その時、お互いが抵抗をやめるはずもなく、頭に血が上っていた僕は、

「これは事を大きくするチャンスだ」と、彼の顔――目を狙って、かかとで思い切り蹴りつけた。

今思えば、狙うのは鼻でもよかったはずなのに、目だった。

目を潰すくらいのことをしなければ、僕が今まで受けてきた痛みとは釣り合わない、そう思っていた。

しかし幸か不幸か大したケガはせずに、部員の誰かが仲裁に入って、やめることになった。

どっちが勝つというケンカではなかったが、

「MがF(僕)に負けた」と誰かがからかい半分言い放ったのは、Mの自尊心をまた傷つけただろう。

もう一人は軽度の知的障害の子Sだった。

これもやはり部活中で、スクールカーストでは最下位に当たるSと僕が、

どういう流れか対決させられることになった。

今思い出してもあれは気持ちが悪かった。

部員全員が輪になって僕とSと囲い、二人の対決を見守る。

まるで闘鶏でも観るような、少年たちの異常なサディズム

Sは知的障害があるとはいえ、筋力はそれなりにあった。

背後からヘッドロックを決められたときに、精一杯僕は彼の口を目がけて頭突きをした。

これも歯を折るとかではなく、舌を噛み切らせることを明確に目的にしていた。

流血沙汰になって先生に知られれば、この見物人たちも「加害者」として裁かれるはずだ。

これは僕とSとのケンカではない。

部員が仕組んだ、自らの手を汚さずにサディズムを満たす卑劣行為なのだ

結局これも、Sが少し脣を切るくらいでおさまって、

あとは先生が来たのを気に、何事もなかったように部活が続けられた。


中三の秋だったか、自習の時に加害者二人に学校中を追い回され殴られ、

初めて先生に泣きついて、いじめ事実をようやく把握してもらった。

それで中三の時に主にいじめてきた奴二人は反省し、

その後僕に暴力をふるわなくなった。

中二の夏のプール時間、溺れさせられそうになった。

それを先生が見ていたのだが、「あんなあぶないことして!」と僕には怒って見せたが、

溺れさせようとしていた本人たちに注意することはなかった。

から先生がどうにかしてくれるとは思いもしなかったが、

先生が注意すればいい程度のものだったのなら、

僕がそれまで断続的に、いろんな奴らから受けていた暴力はいったい何だったのか。


今となっては、僕がいじめられていた原因はなんとなくわかる。

背が小さくて痩せ形だったから、暴力をふるいやすかった。

そのわりに生意気な所があって、反抗してくるからますますいじめたくなる。

Twitterで見た発言だが、「いじめられる側にも原因はあるが責任はない」というのは、

いじめられっ子として非常に納得がいく。

そしてMやSを見下していた=いじめていた僕としても、非常に納得がいく。

ナマイキ。

俺より弱そう。

なんかムカつく。

殴ったあとの反応が面白い

いじめる原因はそれで充分なのだ

小動物をいたぶるのに、大した理由はいらない。

猫をかわいがっていて、つい嫌がる反応を見たくて抓ったりする。

それと同じだ。

もしくは、お互いがお互いのちっぽけなプライドを賭けて、

お前より上だと主張しあう。

学校という狭い世界での存在証明に、誰もが必死だった。


僕はあのとき、取り返しのつかない怪我を彼らにさせていればよかったんだろうか。

少年A」になり損ねた僕は、この春入学する我が子がいじめられたら、どうすればいいのだろうか。


僕に似た息子は、きっといじめ相談なんて親に出来ないだろう。

いじめ現場を密かに録音しても、それを聞かれるなんて嫌がるだろう。

からせめて、彼の行き場のない怒りを学校テレビにぶつけろとでも伝えようか。

「もしいじめられて、堪えきれなくなったら、テレビ椅子でぶっ壊せ。

 そしたらお父さんはすぐに駆けつける。

 先生がなんといおうと、お前がいじめられてる証拠だと言う。

 人に怒りをぶつけて怪我をさせたら、お前が嫌な思いをしてしまう。

 人を怪我させたら大変だけど、学校テレビくらいならいくらでも弁償してやる。

 だから人を傷つけるくらいなら、テレビ椅子で殴りつけろ」

たった10分、15分の休み時間や、部活の時など、先生の目の届かない時に、

その暴力は奮われる。ならば、先生に見せつけてやるしかない。

から先生、お願いだからいじめ無視して手を汚さない「加害者」にならないでくれ。

僕らはいつも見えない涙を流し、聞こえない悲鳴を上げている。

見て見ない振りだけはやめてくれ。

元「少年A」を増やさないために。

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