家が隣同士の二人は、毎朝手をつないで幼稚園に行き、向かい合ってお弁当を食べ、並んでお昼寝をして、また手をつないで家に帰った。
それから、どちらかの家でままごとやヒーローごっこをして日の暮れるまで遊んだ。
二人はいつもいっしょだった。
ある日曜日、それぞれの母親と四人で出かけた街の本屋で、二人は素敵な絵本を見つけた。
二羽のうさぎが、愛し合い、その気持ちをことばにして伝え合い、結婚をするお話だった。
絵本に気付いた女の子の母親が、冗談混じりで笑いながら言った。
一年生と二年生のときは同じクラスだったが、三年生になると離れてしまった。
もっとも、朝夕の登下校は、それより前からいつしか別々になっていたし、二人とも、特に気になりはしなかった。
三年生の夏休み。
女の子は、宿題の読書感想文のための本を選びに、母親と街の本屋に来た。
母親から相談された店員は、二匹のかえるが手紙の投函を通じて友情を確かめ合う本を奨めた。
六年生。
「おはよう」
と声をかけても、彼女は少しだけ微笑んで、しかしいかにも鬱陶しそうに
「おはよ」
と小さく返すだけだった。
当たり前のように並んで歩こうとすると、彼女は何も言わず、歩みを早めた。
「思春期だからねえ。あんたのことが嫌いになったわけじゃないのよ。
でも、落ち着くまではそっとしといてあげなさいね」
正直、彼にはよくわからなかった。
その年の夏休みは、彼が本を買いに来た。
会計を済ませて店を出ようとした彼に、店員が声をかけた。
「これを読んでみてごらん」
渡されたのは、読み古された昔のまんが。
断るのも悪い気がして、そのまま受け取り、自宅に持ち帰った。
目の飛び出るほどの高額な治療費を患者にふっかける変わり者の医師の話だった。
医師をけなげに慕う少女との同居生活の描写が、彼の心を不思議に揺さぶった。
中学生。
三年間で、同じクラスになることは一度もなかった。
お互いの認識はもう
「幼馴染だった人」
以上でも以下でもなく、二人はそれぞれの生活にひたすら没頭していた。
だから、男の子に彼女ができたらしい、と噂で聞いたときも、女の子は特に何を思うでもなかった。
まったく、何を思うでもなかった。
飽きた。
寝る。