先日、TBSの番組「夢の扉+」を見ていた。TBSの中で視ているのはこの番組だけだが。先日のテーマは「小さな町工場から日本の製造業を支える!」というもので、職人集団「チーム等々力」の免震テーブルの開発について綴られていた。
確かに、各職人の技術はすごい。ああいう職人技が日本を縁の下の力持ちとして支えているのも事実だと思う。例えば、新幹線の先頭ノーズはあれは職人手作業じゃなかっただろうか?
違和感を感じたのは、「職人が大学教授の求めているモノを理解出来ない」という点だった。結局番組では理系大学出身の技術者が、大学教授の要求(要件定義)を職人に分かるように図面に起こした事になっている。
それでいいんだっけ? 図面になっている物は作れるが、図面を起こす事が出来ないということだろうか?
我々IT技術者は、顧客のまだ具体的になっていない要求をヒヤリングするところから始まり、要件定義をし、設計し、実装し、テストし、納入し、運用・保守をする。だから、顧客の専門用語や技術も分からなければならないし、情報技術も分かっていなければならないし、運用・保守コストも考えなければならない。それに情報技術は進歩が早いにもかかわらず、分野によっては製品寿命が20年とかいうのもあるから、新技術だけ知っていても話にならない。
「チーム等々力」の方々は、いい製品を作るかもしれないけれど、IT業界的に言えば、コーディングだけ、という事に。否、それでも範囲が広い。コーディングは一種の「設計」でもあるから、範囲はもっと狭い。
そういえば、ITで「制作・製造」ってどの部分を指すんでしょうね。もしかして、コンパイル・リンクしている時間だけかも。なにしろ、コーディングも設計の一部であるから。
自分は、顧客の要求をヒヤリングするところから、運用・保守まで全てに関わっている。ヒヤリングしている時点でどう実装すれば良いか、どう保守するか、保守のための実装はどうするか、を考えながら顧客と接している(ここでいう実装とは、ハードウェアも含む)。
かなりゼネコン化されているので、元請けが仕事を取ってきて、こちらに仕事を発注する事になる。その時点で、かなりの情報が欠落している。元請けの方は、顧客(この場合エンドユーザー)の専門が分からないまま受注している事が多い。その上、実装を分からずに発注してくるから、かなり困る。結局、元請けに対し、かなりの懸案事項が発生する事態となる。顧客に対してこの設計では足りないとか、設計に対し実装不可能とか。それをいちいち指摘しないとならないが、これが時間がかかる。
こういう案件がたくさん来ると、今度は実装出来る人間に限界が出てくる。なので、実装するのをさらに下層の外注ソフトハウスに出すの事になるのだが、今度はこれが、エンドユーザーの事が分からないため、なんだかよく分からないブツが上がってくる。その上、金の切れ目は縁の切れ目だから、運用保守に関しては全く考慮されていないブツ。もちろん、中には優秀な外注さんもいて、すばらしいコーディングのブツが出来上がってくる事もあるが、そういう人に出会える確率は万分の一程度か。
そこへ追い打ちをかけるように、コスト低減要求と短納期要求、仕様変更。人月の神話。
顧客の頭の中を覗く人、顧客の要求を情報技術者向けに翻訳する人、翻訳されたものを実装する人、実装されたモノをテストする人、テストし終えたモノを納入・設置する人、運用・保守する人、がそれぞれ分業・連携取れていないのが、現日本のIT産業の姿です。
最近は自社の社員も質が下がってきていて、Windowsしかいじれないとか、統合開発環境内でしかブツが作れないとか、コンピュータがどう動いているかイメージ出来ないとか、果ては、顧客の専門用語が分からない、というのもいる。ソフトハウスに至っては、作ったはいいが、作ったモノに対してデバッグ出来ないとか言い出す始末。
というわけで、就活生には、ITはお勧めしない。もし、プログラミングだけしていたいというのであれば、メーカーではなく、小さなソフトハウスに就職した方が良い。でなければ、顧客と対等(同等)の(製品)知識と、新旧情報技術に対応出来るだけの能力が必要とされるのである。
IT屋ってこういう「自分たちは大変なことしてる!」ってアピールしたがるバカが多いよね。 よく知りもしない他業種と頓珍漢な比較したりして。
IT屋ってこういう「自分たちは大変なことしてる!」ってアピールしたがるバカが多いよね。 よく知りもしない他業種と頓珍漢な比較したりして。