2011-10-02

民間刑務所としての日本語ネット社会

はい笑って! 監視カメラ撮影です

facebookが全地球上の利用者の行動データを黙々と集め続けているというブログ記事が多くの注目を集めて、ガクブルする人のうめき声や罵詈雑言が飛び交ったことは、これを見ている人はまだ記憶に新しいと思う。


さて、日本語圏の、だいたい日本国と重なるネット社会はどうだと思う?

2ちゃんねる有名人の殺害予告を書き込んだ奴の家に警察がやってくるというニュースはそんなに珍しくなくなっている。ヤバげな書き込みがあれば、奴らはあっというまにきみの発信者情報を特定してドアをノックするというわけだ。

そういう意味で、すでにぼくたちは「公権力に」よってネット上での行動を監視されているわけだ。

パノプティコン

これもよくいわれるんだけど、こういう状況は、ミシェル・フーコーというフランス人が「パノプティコン」と呼んだ状況に似ているかもしれない。

パノプティコンというのは、ベンサムというイギリス人が考えだした刑務所モデルのこと。監獄がドーナッツ型になっていて、中央の穴の部分に看守の建物がある。囚人たちは、四六時中看守に見られているような気がする。たとえ看守の建物にだれもいなくてもそうなんだ。いつのまにか、囚人は看守の視線自分の中に取り込んでしまから、下手なことをしようという気を起こさなくなるというわけ。ようするに、その監獄にいる囚人はどんどん自主規制するような、監視者に都合のいいシステムパノプティコンだ。

2ちゃんとか自分ブログに何か書こうとしているとき自分の心の動きを思い出してみて、どうだい?

アイドルを殺すとか、新宿駅を爆破するとか、そういうことを書き込んだら、たとえ冗談でも警官が家に来るらしいってことは漠然と「知って」いるだろ? だからめったなことではやらないだろ? そもそもやろうと思わないだろ?

なぜなら、きみは自分監視されていることを「知って」いるから。

でもさ、きみはほんとに、どっかの地下司令室みたいな所で、日本中の掲示板ブログの内容を膨大な数の監視員がチェックしているところを見たのかい? SF漫画の中で見ただけじゃないのかい

たとえそんなところが本当にあったとしても、そこで働いている奴はい夜食ビッグマックを頬張るのに夢中になっていて、きみの書き込みなんか見ちゃいないかもしれないんだよ?

でもきみは心のどこかで自主規制するよな。だって、ヤバいことを書き込んだら、奴らが来るって「知って」いるから。

傭兵たち

ところで、そういうネット上のパノプティコンみたいなものは、べつに「公権力」じゃなくてもこの国では勝手にどんどん作れることは知ってたかな。

ほかでもない、ネット上の風評被害対策とか、「ソーシャルメディアマーケティング」をやっている民間企業だ。こいつらはネット上の自警団というよりは、傭兵だ。金で雇われれば誰でも手にかけるから

たとえば、きみが2ちゃん自分ブログである企業の批判をしたとする。傭兵たちは独自のクローラー毎日ネット上に走らせているので、君の言葉はすぐに見つける。そしたらすぐに2ちゃんの運営ボランティアブログプロバイダ削除依頼をかけるか、訴訟をちらつかせながら発信者情報の開示を始める。

だって、どこの馬の骨とも知らないやつに自分の居場所を突き止められたくない。弁護士対応なんてしたくない。

から自主規制する。


まあ、きみがただ単に相手を傷つけようとして、根拠のない誹謗中傷を垂れ流そうとしてそういう目に合うのなら、自業自得というものだろうね。

でもさ、他人のでたらめを見かけてそれを指摘しようとしたときに、ナイフをちらつかせられたらどう思う?

とくに、企業に雇われた傭兵たちが嘘八百をいい散らしているのを指摘しようとしたときに、訴訟を恐れて自主規制しようとしたら?

そもそも、指摘する声を出せないように傭兵たちが街中の広場をすでに封鎖してしまっていたとしたら?

「民間刑務所」の誕生

なんのことはない。きみは気がついたら彼らが勝手に作った「民間刑務所」のなかで監視を恐れながら粛々と労役に励んで、傭兵たちが大声でおすすめする臭い飯を、きみ自身の苦役で稼いだ労賃で買いつづけるわけだ。日本語圏のネット社会は、気がついたらそういうプライベートな監獄で何重にも囲まれていたという話。


たまたまそういった「民間刑務所」の看守見習いがヘマをしでかして、刑務所オペレーションに関する書類を落としてしまったとする。それを拾った奴が広場で騒ぎ出し、市場ゴミ拾いが日課で壁新聞の好きな奴がその書類を市場の外に、街のいたるところに見えるようにして貼り出してしまった。でもそのゴミ拾い人は傭兵たちの訴訟攻撃にぶるってしまって早速自主規制したまま黙っている。その間に市場での騒ぎは手際よく鎮圧されてしまった。傭兵たちは普段からそれで飯を食っているので、自分たちのこととなると作業は早い。


市場の住人たちも、その外で壁新聞を読んでいた人たちも、なにかおかしなことが起こっていることをばくぜんと感じ取っている。たとえ騒ぎが収まった後でも、そのおかしな感じは消えるだろうか。自分たちが「民間刑務所」の中で暮らしていたことに気づいた後で。

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