面白い結果になったのでレポートを書いてみたら長くなってしまった。
ホームが入場制限され、かなりの行列ができていた。
一部では運転していない路線もまだあった。
咄嗟に「あれ、これってナンパのチャンスじゃん?」って思った。
すぐに改札に入らずに、しばらく改札前を観察してみた。
すると案の定、混雑している構内を見て入ろうかどうか迷っている女性がちらほら。
観察をし続けて十五分経ったころ、一人の女性が目に入った。
およそ30歳前後、綺麗目だけど地味な服装、仕事帰りっぽい雰囲気。
僕のストライクど真ん中かつ経験則から言って落としやすいタイプ。
すかさず立ち止まっている彼女の横に行き声をかけた。
「うわー、大変なことになってますね」
「ねえ、ほんとそうですね」
「何か被害に合いませんでした?」「揺れたときは何してましたか?」「これからどうなっちゃうんでしょうね」
「今は足止めな感じですか?」
「うーん、あたし京王線なんですよ。しばらく運休みたいで……」
「このままここで待っているのもあれですし、どこかで休みませんか?」
「えっ」
「20歳ですよ」
「ふーん、学生さん?」
「へぇー、大胆ですよねえ。急に話しかけて。ナンパですよねえ」
「いや、ナンパとかじゃなくて……」
「いやいやいや! 喫茶店とか」
「何であたしに声かけたんですか?」
「いや、綺麗な人だなあって思って」
「ち、ちがいますよ……」
「ふーん。ごめんなさい。行かないですよ」
「はい……」
「あなたは何線?」
「じゃあ、動いてるじゃないですか。乗りましょうよ」
「えっと……」
ここで引いちゃダメだよ思った。ここで何とか切り返さなきゃ僕の負けだ。
「帰りたくないんです」
「……ふーん」
「それはちょっとわかりますけど」
「そっか。まあ、そうですよね」
ここで勝負にでた。
「あの、このままお別れって嫌です」
「ダメですってば。こんだけ普通に話してあげてて、優しい方ですよ」
「そうですか?」
「そうですよね……」
「え! やめてください……」
「しませんよ、そんなこと」
「僕もです!」
「うん、よかっですね」
ここで会話を終わらせちゃダメだ。
「あの、ほんとにさっきはホテルとかじゃなくて……」
「わかりましたよ」
「もっと話したいなあって思って」
「もう無理ですって」
「あの、せめて……」
「ううん? せめて?」
勇気を振り絞って言った。
「せめてあのー、抱きしめるとか、それだけでも」
「ええ!?」
「ほんとにあのー、不安でしょうがないんです。人の肌に触れたら、和らぐと思うんです」
「いやあ、ほんとに、帰った方がいいですよ」
「お姉さんみたいな綺麗な人に抱きしめられたら、ほんとのほんとに安心感を得られると思うんですよ」
「うーん……」
「……まあ、一回だけなら」
奇跡が起こった。
「ほ、ほんとですか?」
「うーん、抱きしめるくらいなら、ね」
「やったー」
「ほらー、十秒だけですよ」
軽くぎゅってされた。僕もすかさず彼女の背中に手を回して身体を密着させた。
「お姉さんの身体、柔らかい」
「ふふふ」
そして、十秒をはるかに越えて一分近くは抱き合ってたと思う。
向こうが「もうダメー」って言って身体を引き離された。
何も言わずににやにやと笑い合って「ほら、もう帰りなよ」って言われて、僕は改札を通った。
別れ際に「楽しかったです」と言うと「私も。こんなの初めて」って言われた。
こんなことしてて不謹慎だと叩かれそうだけど、僕が不安でいっぱいだったのは事実。