2011-03-09

10ヶ月メル友だった女に会ってきた

俺は、プログラマーだ。

地方に転勤してきたはいいものの、知り合いもおらず、出会いもなく、それどころか転勤してきて2ヶ月目で

長期のデスマ状態だった俺は、つかの間の癒しを求めてサイトを見ていた。

ぽっちゃりですがよかったらメールしませんか」

3歳下の女の投稿があっていた。顔半分が隠されてはいたが、まあいわゆるデブギャル写メも載っていて、

俺はそれにメールを送った。顔は可愛かった。金髪で、もちろんおっぱいもでかそうだった。

体重は言おうとしなかったが、Gカップであること、写メの顎の感じ、チラッと映った首もとの感じなどから彼女はなかなかのデブなのではないかと思った。身長も170cmと高い。もしかした体重3桁行ってるんじゃないかと思うくらいの巨体だ。

俺は、デブ専だ。ポチャ専ではない、デブ専だ。

丸い顔、たぷたぷの二の腕、巨大な胸、突き出した腹、踵を付けて立てないくらいの太い足にしか魅力を感じ無い。

から俺にとって彼女の体型は、正直ドツボだったのだ。

デスマ真っ最中のつかの間の息抜きとして始めたメールだったが、いつの間にかはまっていった。彼女は同じ市の、車で30分くらいの所に住んでいた。

写メは、(デブ専の俺にとっては)滅茶苦茶可愛らしく見えたし、仕事(デザイン系)をひたむきに頑張る姿勢や、ギャル系の格好をしているわりには性格も柔らかく、思いやりのある優しい子だと感じた。そしてなにげに頭もよかった。とにかく、俺のタイプ女の子だったのだ。

彼女も俺を好いていてくれたように思う。よく、プリクラ画像や普段の写メなんかもくれた。たまには谷間なんかも。

メールをはじめて3ヶ月くらい経った頃から彼女から言われるようになる。

「会いたいな」

『ごめん、仕事終わってから

「いつ終わるの?」

『来月には』

来月には、と言いながら半年が経った。彼女誕生日も、クリスマスも、正月も、バレンタインも過ぎた。

俺はずっと泊まり込みで仕事をしていた。深夜に交わす彼女とのメールけが支えだった。

本当は、会えたのだと思う。寝る時間を削れば。でも伸びきった髪を整える暇がなかったし、流行の服だって持っていない。

そんなくだらない理由で俺は、完全に仕事を終わらせるまではメル友でいたい、などと自分勝手なことを言った。

彼女は俺とのメールを辞めようとしなかった。ありがたいことだと思う。でも、たまに卑屈なメールも来た。

「私がデブから会いたくないの?」

『違うよ、ぽっちゃりは大好きだよ』

うそつき。でも、気を使ってくれてありがとう」

『嘘じゃないよ』

そんなことを不安に思う彼女が可愛くて仕方なかった。ころころとよく笑い、前向きで、美味しいものが大好きで。そんな彼女が愛しいと思うようになった。

長くメールをしていくうちに、写メ交換などはなくなった。

だが、優しく、素直で、礼儀正しく、話も面白く、可愛くて、ぽっちゃり。そんな理想の女そのものの彼女にどんどん惹かれていったし、メールは心からしかった。

そして、俺たちは11ヶ月かかってプロジェクトを終わらせた。

スタートから3人が減り、2人が入院し、1人が自殺未遂した地獄プロジェクトだった。その夜、久々に家の風呂に入った後仕事が終わった、と彼女に言った。彼女は驚きながらも喜んでくれた。

ちょうど翌日はどちらも休みだ。初対面を果たそうではないかと言うと、彼女は言った。

「嬉しいなあ、やっとだね」

『待たせてごめんね』

「待っててよかった!でも、会ってがっかりするかも」

『どうして?まだ体型気にしてるの?』

「うん…」

『気にしないで、どんな○○だって好きだ』

本心だった。一刻も早く、その豊満な身体を抱きしめて、結婚を前提に付き合ってくれというつもりだった。

きっと婚約指輪は特注だ。入るウエディングドレスはないかもしれない。それでもきっと世界一かわいい花嫁になるだろう。

馬鹿しいが、そんなことまで考えながら、待ち合わせ時間まで車を走らせた。勿論美容室にも行って、新しい服を着て。

待ち合わせ時間に着いたが、彼女らしき姿は見当たらない。電話をかけると、彼女が出た。

『着いたよ』

「私も着いてるよ」

『どこ?』

ゴミ箱の横らへん」

コンビニのでかいゴミ箱にさっと視線を走らせる。

そこに彼女はいた。

間違いなくそれは彼女だった。優しい目元に、豊かな髪。

低めの鼻に、ふっくらした唇。彼女の顔だと、認識した

そして同時に、俺は泣きそうになった。

神を呪いたくなった。

なんなんだ、それは。

その小顔は。肉のない頬は。携帯を持つ骨の浮き出た手の甲は。

細い首は。浮き出た鎖骨は。ベルトで絞めつけられた60cmもなさそうなウエストは。

スキニーに包まれた長い棒のような脚は。太ももの間の隙間は。

誰なんだ、このどう見てもBMI17程度の、痩せ型の女は。

俺が何も言わないでいると、彼女は泣き出しそうな声で言った。

『ねえ、やっぱりデブでいやだった?会いたくない?』

俺は、車種と車を止めている場所を教えた。声は震えていた。

彼女は、枯れ木のような脚を動かしてこちらに歩いて来ると、助手席の

窓側に立った。俺はロックを外して、彼女が乗り込んでくる。

彼女は泣きそうな顔をしていた。頬はこけている。

俺は何も言えなかった。

彼女は、ぽつりぽつりと話しだした

本当に俺が好きだったということ、自分の体型にどうしても

自信が持てなかったこと、だから会うまでに内緒ダイエットしてキレイになって

喜ばせようと決意し、半年間で40kgの減量に成功したこと。

だが、相当無理な食事制限をしたため拒食症気味になってしまったこと。

『ちょっとはマシになったかな?」

とこっちを伺った彼女は、どこにでもいるキレイなお姉さんだった。

盛り上がる頬の肉も、たるんだ二重あごもそこにはなかった。

"美人モデル体型の女の子メル友だったが会ってみるとマツコ・デラックスだった"

その衝撃以上のものを覚えた。

何を話したのかも覚えていないが、気づけば俺は一人車を走らせていた。

もう、携帯は鳴らない。

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