円高だから輸出が伸びないのではなく、輸出先に購買力が無いから、輸出が伸びないのである。
円安にする為に、去年の9月に円売り介入をしたが、その結果、どうなったか。輸出したくても、相手先では食料や燃料の高騰によって可処分所得が食われ、工業製品の購入・更新は先送りになっていて、輸出は大幅に減ってしまっている。せっかく円安に誘導したのに、輸出先の在庫がだぶついていて、出荷したくても受け入れてくれない状態となっている。
つまり、通貨の切り下げ競争をやっている相手国に、輸出をする為に同じように通貨の切下げで付き合っても、相手国の消費者はエンゲル係数が上昇している為に購買力が減少し、輸出しても在庫が積み上がるだけで、利益に繋がらないのである。
通貨の切り下げで輸出が伸びて相手国の産業を空洞化させる事ができるのであれば、国際的経済戦争の手法としては有効であるが、相手国に購買力が無い場合や、相手国の国内産業が生産する製品よりも高性能で安価な製品を作り出せない状態では、通貨の切り下げは間違った政策となる。
後進国・中進国は、この間違いを実行してしまい、輸入物資の高騰を発生させ、国内経済を疲弊させてしまい、政情不安を招いている。
食料や燃料といった生活必需品のコストが高騰していて、工業製品に対してお金が回らない状態は、当分続くであろう。工業立国を続けるには、少なくなったお金を吸い取れるだけの信頼性と利便性を実現した製品を供給する事でしか、成立しないわけで、かつ、後進国・中進国に出て行った工場ではコピーできないような製品でなければならない。そういう製品を生産し、そして、国外に余計なお金が流れていかないように、低レベルな製品も国内生産に戻す事が必要となる。
購買力が小さくなっている市場においては、営業マンを送り込み、その国内のメディアに宣伝を流して製品を売るというやり方は、通用しない。市場規模が小さすぎて、営業所や支店を置けるだけの売り上げが維持できないのである。宣伝はインターネットで行い、個人輸入の形で購入して貰うという手法へとならざるを得ない。
宣伝は個別の製品の宣伝だけでなく、企業の信用度を上げる宣伝も同時に行わなければならない。個別の製品の宣伝については、過去の手法が使えるが、企業の信用度を上げる宣伝については、過去の手法は使えない。親戚が従業員になっているとか、本社ビルや工場といった物件が目の前にあるといった信用創造が通用しない顧客に信用してもらうにはどうすれば良いかというと、その企業を支えている株主やユーザーといったソーシャルネットワークの広さ、実存を、その企業のwebにおいてアピールするとなる。インターネット上の既存コンテンツをミラーして、投票によって入れ替えを行っていくという手法は、その手段の中の一つである。
リストラによって親戚が解雇されたとか、工場が廃止されて海外に出て行ったといったことで、社会の中における存在感が希薄になっていくと、外資と信用度に差が無くなり、余計に過酷な競争に巻き込まれるというのが、日本の産業が陥っている失敗の原因の一つと言える。
対策は、企業側だけではなく、政治の側においても、行う必要がある。食料や燃料を生産する方が、はるかに楽なように見えるが、それらで養っていける人員の量には限界がある。日本にとって、工業立国は、当面は過大な人員を食べさせていく為に必要な選択であり、特許権や著作権等の知的財産権や、懲罰的賠償制度、許認可、立地制限といった制度を改廃し、起業を行いえて、しかも、競争が活発化するような産業育成が必要となる。