2010-10-12

俺と麻美は初めて出会った時から、うまく噛み合うことはなかった。

親しくなり、麻美が俺のことを好きだと言ってくれたとき俺には彼女がいたし、

麻美と同じ気持ちだった俺が彼女と別れる前に、麻美には彼氏が出来てしまった。

「待ってて」の一言があればよかっただけなのに。

そんな状態でも、俺と麻美は仲の良いままだった。

仲が良いと言っても、それは良い先輩後輩や友達というわけでなく、

端から見たらカップルでしかなかったと思う。

普通にデートもしていたし、泊まりで旅行にも行った。もちろんそこにはセックスもあった。

お互い恋人がいてもそれが変化していくことはなかった。

「30歳になっても、お互い未婚だったら結婚しましょう!」

「前に言った、30歳になっても、ってやつ、覚えてます?私、おバカさんだから期待してるんですっ」

そんな約束も、確証なんて何もないのに、叶うような気がしていた。

だらしないセックスが原因で子供が出来たことがあった。

麻美には彼氏がいて、俺には彼女がいなかった。

今にして思えば分岐点だったのだ。

奪えばよかった。…俺の友人である、麻美彼氏から



でも俺はびびっていた。人間関係、これからのこと、すべてが不安でしかなかった。


子供は結局堕した。

収入自分と、まだ大学生だった麻美には、それが最善だったと思うようにした。

麻美は泣いていた。

俺と麻美には常に進展がなかった。

二人でいるときだけはいつも同じ空気が流れていて、大きな起伏はなかった。

だからこそ三年以上もの間、同じ様な関係が続いていたのだと思う。

当たり前のように過ぎていく中で、俺に彼女が出来た。

麻美との関係を続けていく中で、俺に彼女が出来ることは初めてではなかったが、

このときに限っては麻美が何か感じたのか、身を引いていたように思う。

それとなく連絡を取らなくなり、ただ業務的な連絡だけを取るようになっていた。




時が過ぎ、麻美結婚することになった。相手は当時から付き合っている俺の友人だ。

披露宴パーティー麻美とは一言二言交わすだけだった。

もともと秘密な関係にあったため、人前ではあまり話すことはなかったのだ。

すべてが終わったあと、麻美メールをした。



おめでとう。良いパーティーだったよ。なんだかホッとしたような気分だよ。幸せそうでよかったよ。

 「なんでホッとするんですか?

 私、今幸せです。センパイ彼女さんと結婚を考えてるんですよね?ちょっとショックでしたけど、幸せになって下さいね。」

ありがとう。

お互い、30まで未婚なんて無理な話だったな。

 「そうですね。でも今が幸せならそれでよしだと思います。

 ひとつ聞きたい事があります。

 今日の私、どうでしたか?

 ちょっとは後悔してくれました?」


…たしかに後悔していた。

これほど祝えない披露宴パーティーはない…

素直に伝えよう。


後悔したよ。

もっと大切にして、無理矢理にでも奪えばよかったと、心の底から思ったよ。

 「期待以上の返事、ありがと。センパイ幸せになって下さい」

…なれるのだろうか。

わからない。

終わったと思っていたのに、いざとなれば腰がひけ、楽しかった日々ばかりを思い出し、苦しい思いになる。

今度こそは、今度こそはと思いながら、いつも心の何処かではあの日々がいつでも帰って来ると感じているのだ。

最後に吹っ切れる言葉が欲しい。

 「でもセンパイ、もう彼女いるでしょ?」

彼女がいても、なんだかモヤモヤするんだ。

 「私もそうです。

 だけど、ここで甘えちゃうと辛いときにまた甘えちゃうから。

 もう、キッパリ、です。」

…そうだよな。

きっと俺はそういう言葉が聞きたかったんだ。

今日で本当にお終いだ。



ずっと開いたままで、いつまでたっても読み終わる気配のない、だけどいつでもまた続きを読み始められそうな本があった。

だけど今はその本は閉じられてしまった。

きっともう開かれることはないのだろ。

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