過剰にサービスを手厚くすることは己の首を絞める危険な行為である。
私がどのようにして判断を誤りそうになり、そしてどのようにして危ういところで軌道修正できたのかをここに書き残しておこうと思う。
「何か食べたい」
と言い出した。
一時間前に中途半端に食べて残しただろきちんと食べろということを幼児にわかりやすく教える時間がなかったので、
「時間ないからおにぎり作ってあげよう。自転車の後ろで食べなさい」
というと
「いやだ」
などと抜かす。
叱っている暇もないので苦し紛れに、
などと何の考えもなく息子の気に入りそうな単語とおにぎりをくっつけて提案すると、息子は大喜びで飛びついた。
「スペースシャトルおにぎり!スペースシャトルおにぎりがいい!」
息子が大喜びで出かける準備をしだしたのはいいが、何の考えもなく言い出したことなので、どんなおにぎりがスペースシャトルおにぎりなのか皆目検討もつかない。
一瞬頭に浮かんだのは、普通の三角おにぎりの両端を薄くして主翼のようにして、残った端っこの近くに楕円に切った海苔を張りコクピットとし、裏側には耐熱タイルを模した、おにぎりの形にぴったり合うように切った海苔を張った立派なスペースシャトルおにぎりだった。
しかし、そんな精巧なスペースシャトルおにぎりを作っていたのでは出発時間に間に合わない。
それに海苔がどこにあるのかわからない。妻に聞こうにも、妻は出勤時間が早いのでもういない。
仕方がないので、半ばやけくそでいつもの正三角形おにぎりを縦長につぶしたような鋭角の二等辺三角形を作り、その粗末な米の塊をスペースシャトルに見立てて息子の目の前で飛ばす真似をした。
「ぶおおおおお、ずどどどどどど、ヒューストン、ヒューストン応答せよ!」
息子は狂喜乱舞してスペースシャトルを追いかけ、うまく誘導されて自転車の後部座席に搭乗した。
本当に危ないところだった。
もし、息子のわがままが時間のあるうちに発動していたら、私は海苔の切り貼りを駆使した精巧なスペースシャトルおにぎりを作ってしまっていたかもしれない。そうしていたら、おそらく次からはどんなに時間がなくて切羽詰った状況でも、息子は精巧なスペースシャトルおにぎりしか食べないと駄々をこねるようになっていたに違いない。
子供だまし
こういう言葉をよく聞くが、私が実際に作ったスペースシャトルおにぎりは、間違いなく子供だましだった。
しかし、息子にしてみれば、そういう子供だましでも十分にスペースシャトルに見えるのであり、大人の視点で無駄に時間と労力を費やして精巧なモデルを作る必要はなかったのだ。
以上のようなことを興奮気味に妻に話したところ、
「そんなの、わがままいってる子は何もあげません!って叱って自転車乗せちゃえばいいんだよ」
と言われた。
確かにそのとおりだと思った。