年末進行でクソ忙しかったがようやく目処が立ち、久々に定時帰りできた。
ビールもどきを飲みつつ、テレビを見てたたら、チャイムの音が鳴った。
時刻は七時三十過ぎ。
宅急便かなと思い、ドアを開けると若い男の二人組が立っていた。
俺に近い方の男がエホバの証人の佐藤だと名乗り、宇宙が誰の為に作られたのかという事を話しにきたと言った。
「宗教には興味ありません。俺は空飛ぶスパゲッティ・モンスター教信者ですから」
「えっ?」
冗談のつもりでそう言ったら、後ろにいた男が口を開いた。
「増田さんはインテリジェント・デザインを信じてるのですか」
「え、ええ、まぁ」
びっくりした。まさか宗教まっしぐらの奴らからインテリジェント・デザインという単語が出てくるとは思わなかった。
それから、後ろにいた男はべらべらと喋りだして、地球が人間が住む為に設計されたとか、人は神を求めてるとかそんな事をしゃべった。
あまりにも熱く語るもんだから、なかなかドアを閉じれない。
数分ほど話して、俺からの険悪な空気を読み取ったのか、そいつはしゃべりすぎましたと言って丁重に謝った。
気づくのおせえ。
それでは失礼しますと言って、そいつらは出て行った。
ドアを閉めてしばらくしてから、あの男が言っていた言葉がふと思い浮かんだ。
「何を信じるのかというのはとても重要だと思いませんか」
その時は適当に答えたが、俺は一体何を信じてるのだろうかと考えたとき、思考が詰まった。
あくまで俺は自分で学習してきた事を本当の事だと思って来たが、その根拠はなんだったのだろう。
経験と勘だけだ。
それが恐ろしいほど脆弱な根拠である事に気づく。
三十年弱の経験と勘。弱い。弱すぎる。
鏡を見ると、疲れ切った俺の顔。
あいつらの晴れ晴れとした表情が煩わしい。
何て対照的なんだ。
盲信であろうとも、きちんと自分が信じてると言い張れるあいつらを、ほんの少しだけ羨ましいと思った。