いきをするたびに、わきばらがずきずきした。
ひゅー、って、笛のような音がする。
かたいブーツの先で蹴られたあばら、心臓が鳴るたびにずきずき痛む。
でも嬉しかった。ドロだらけの手のなかには一粒のあめ玉。
きちんと包装紙にくるまれて、道ばたに落ちていたのだ。
必死になって、拾おうと飛びついたら、「邪魔だ」って蹴られて、
わきばらはすごく、ずきずき痛いけれど、とても幸せだった。
いつ食べようかな、すぐ食べようかな。
でも、痛いのが治ってから食べたほうが、美味しいかな。
痛くて、足に力が入らなくて、壁に手をついてよろよろと歩く。
「えへへ」
膝がかくかくしたけど、壁に触れた指がぶるぶる震えたけれど、手の中の、小さなまるいあめ玉が、すごく嬉しかった。
もうすぐ、おうちに帰れる。そしたら、これを食べようかな。
いつもの路地、たくさん、紙とか布のゴミを集めて温かくした“おうち”。
そこに辿り着く、すぐ手前に、あかちゃんがいた。
捨てられたばっかりだった。白くて、ほわほわした、可愛い服と布にくるまれている。
近づいて覗き込む。
白くて、すべすべして、温かそう。
触りたかったけれど、手は血と泥で汚れていたので、ためらってしまう。
汚れた鼻を近づける。いいにおい。
あかちゃんは、かわいくて、いいにおい。
ふえ……って、あかちゃんが泣く。
やわらかくて、ふわふわのあかちゃん。
ないたらやだな、どうしたのかな。
おなかが……すいたのかな。
手の中の小さなあめ玉。
強く握りすぎて、くしゃってなった包装紙をとく。
指先が、痛みと寒さで震えて、なかなかほどけない。
「まっててね、あかちゃん。おいしいものあげるからね」
ふえ、ふえ……と、あかちゃんが不満そうにぐずる。
いま、おいしいもの、あげるから。
これはすごく甘くて、おいしいものだからね。
震える指。泥で黒くなった指先を、服の──綺麗な部分を頑張って探して、ごしごしこすって。
まるい、あめ玉を、あかちゃんのお口にいれてあげる。
あー、って。
あかちゃんがわらってくれて。
すごく、しあわせなきもちになった。