2009-02-17

あめ玉

 いきをするたびに、わきばらがずきずきした。

 ひゅー、って、笛のような音がする。

 かたいブーツの先で蹴られたあばら、心臓が鳴るたびにずきずき痛む。

 でも嬉しかった。ドロだらけの手のなかには一粒のあめ玉。

 きちんと包装紙にくるまれて、道ばたに落ちていたのだ。

 必死になって、拾おうと飛びついたら、「邪魔だ」って蹴られて、

 わきばらはすごく、ずきずき痛いけれど、とても幸せだった。

 いつ食べようかな、すぐ食べようかな。

 でも、痛いのが治ってから食べたほうが、美味しいかな。

 痛くて、足に力が入らなくて、壁に手をついてよろよろと歩く。

「えへへ」

 膝がかくかくしたけど、壁に触れた指がぶるぶる震えたけれど、手の中の、小さなまるいあめ玉が、すごく嬉しかった。

 もうすぐ、おうちに帰れる。そしたら、これを食べようかな。

 いつもの路地、たくさん、紙とか布のゴミを集めて温かくした“おうち”。

 そこに辿り着く、すぐ手前に、あかちゃんがいた。

 捨てられたばっかりだった。白くて、ほわほわした、可愛い服と布にくるまれている。

 近づいて覗き込む。

 白くて、すべすべして、温かそう。

 触りたかったけれど、手は血と泥で汚れていたので、ためらってしまう。

 汚れた鼻を近づける。いいにおい。

 あかちゃんは、かわいくて、いいにおい。

 ふえ……って、あかちゃんが泣く。

 やわらかくて、ふわふわのあかちゃん。

 ないたらやだな、どうしたのかな。

 おなかが……すいたのかな。

 手の中の小さなあめ玉。

 強く握りすぎて、くしゃってなった包装紙をとく。

 指先が、痛みと寒さで震えて、なかなかほどけない。

「まっててね、あかちゃん。おいしいものあげるからね」

 ふえ、ふえ……と、あかちゃんが不満そうにぐずる。

 いま、おいしいもの、あげるから。

 これはすごく甘くて、おいしいものだからね。

 震える指。泥で黒くなった指先を、服の──綺麗な部分を頑張って探して、ごしごしこすって。

 まるい、あめ玉を、あかちゃんのお口にいれてあげる。

 あー、って。

 あかちゃんがわらってくれて。

 すごく、しあわせなきもちになった。

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