2009-01-18

覆水を盆に返したいのですが

話はまず中学生まで遡る。

中学校の頃好きな女の子がいた。その頃の自分は屈託の無い馬鹿だったので人並みにモテた。中一のバレンタインの時よく遊ぶ女の子二人からチョコをもらった。一人は手作りのいかにも本命って感じのモノで、もう一人――俺はこの子が好きだった――から手紙入りのそっけないチョコをもらった。でも俺が好きだった女の子も俺のことが好きだったらしくてその子としばらく付き合った。あまりに馬鹿だったからすぐに別れた。本命チョコをくれた女の子(A子とする)とはその後も友達としてそれなりに仲良くやった。その間にA子は彼氏を作ったりしてたが、別にどうでもよかった。そんな感じで中学校卒業した。

卒業した春休み志望校に受かった俺も、別の高校に入ることになったA子も友達も浮かれて遊んだ。基本メンバーは俺とA子と仲の良い男友達と、その彼女の四人。その頃A子は彼氏と別れたばかり。まぁ、なんか期待するわな。タイプじゃなかったけどかわいかったし。そんなこと考えながら毎日メールしたりして、で、まぁなんやかんやあってある時二人きり一緒のベッドに座ってるって状況になった。その後は言わずもがな。諸々の問題で最後までは出来なかったけど。

俺はヤリたくてヤリたくてしょうがなかった。ヤリたいというよりヤッてみたい。触ってみたい舐めてみたい挿れてみたい。そんなわけでそれから春休みは毎日そんな感じだった。それでも挿入には至らなかった。

高校入学式が近づいてきたある日A子が訊いてきた。「ねぇ、なんでこんなことするの?」

俺は答えた。「……好きだから?」

そんなわけはなかった。もっと胸が大きくて頭が良くて顔がタイプでヤラせてくれる女がいれば間違いなくそっちに飛びついていた。……そして、そんな子は高校で出会えるかもしれない。

A子がまた訊いた。「私のこと、これからも好き?」

俺は答えた。「わからない」

それは『高校でお前以上にいい女がいるかどうかわからない』という意味で。

入学式前日A子は別れた彼氏SEXをした。A子の処女は別れた彼氏に捧げられた。

高校に入学して一ヶ月。ヤラせてくれそうなかわいい女の子はいなかったが、A子には彼氏が出来た。別に俺とA子は付き合っていたわけではない、これは普通のことだ。俺とA子の関係は、いつもどおり、変わらない。いつもどおり、揉ませてくれるなら、性的欲求の捌け口になってくれるのなら、それでいい。

俺はメールで訊いた「会わない?」会ってはもらえなかった。

また別の日に訊いた。また会えなかった。さらに別の日に訊いた。会えなかった。また、ヤれなかった。

そんな感じでしつこくヤろうとしていたある日、春休みにしょっちゅう遊んだ男友達の彼女(この子は元々A子と仲が良い友達だった)からメールが来た。

「A子にはもう彼氏がいるんだからしつこく付きまとわないであげてくれない?ヤりたいだけなのが見え見えでキモいよ」要約するとこんな感じだ。

その時に初めて気が付いた。自分がどれだけ愚かなことをしていたか。どれだけA子の感情を踏みにじっていたか。そして自分とA子の関係もう中学生だった頃のように元には戻れないということに。

それからはなんていうか本当にダメだった。A子とはほとんど関わりは無くなって女性とも殆ど喋れなくなった。「自分みたいなクズ人間女性と仲良くなってはいけない」とか「二度と誰かの真っ直ぐな気持ちに干渉したくない」とか考えたりしていたが、単純にA子の友達からもらったメールみたいな剥き出しの嫌悪を浴びるのが怖かった。誰もが自分の事を裏では嫌っているんじゃないか、陰口を叩かれているんじゃないかと思うとほとんど誰とも仲良くなれなかった。自分の好意を嫌悪で返されるのが怖かった。ずっとそんな感じのまま、俺は高校卒業した。

こんな嫌な思い出が染み付いた場所から離れたい一心で勉強して、なんとか他県の大学に入って、俺は一人暮らしをすることになった。その頃から数少ない高校の友達との関係や、昔の自分なんかを根拠に「俺はそんなに人に嫌悪感を持たれたりしない」とか思い込むようにし始めた。いい加減まともな人間に戻ろうとしないと一生このままのような気がした。だから、なんていうか「彼女が欲しくなった」のだ。失われた高校生活を取り戻したくなったのだ。SEXはしなくてもいいとは言わないが、それ以上に好きな女の子と一緒にデートしたり他愛の無い話をするという行為に強い憧れを抱いた。これは本心からなのかは俺には判断しかねるがそうであって欲しいし、もし彼女SEXしたくないと言えば絶対しないつもりであった。

大学に入ってから今までより積極的に人と接した。女の子とも友達になったし合コンにも行ったりした。でも高校生活の三年間をほとんど女性コミュニケーションを取らずに生きてきた俺はどういう話をすれば良いのかということがわからなかった。しかも高校時代一人で色々やってたせいで趣味も独自に形成されていったからほとんどの人と好きな本や音楽の話も出来ない。もしかしたらもう二度と自分は心から楽しく女の子と会話できないんじゃないか、とさえ思った。

ある日、某SNSをやっていて郷里女の子と仲良くなった。写真を見たが彼女はかなりかわいく、ついでに俺の好みだった。一応断っておくが彼女が所謂ネカマであったりネットの中でだけ別の人間を演じている、ということは無い。その理由の説明が面倒なので割愛するが、身勝手とは思うがそういう可能性はここでは排除して読んで欲しい。無論彼女写真が偽者である、とか、写真映りが良い、とかそういうどうでも良い可能性も排除していただきたい。そんなことは話の本筋とは関係がないんだ。

彼女とは趣味が合った。趣味が合うことは他の女性でも度々あるにはあったが「それのどこが良いか」「どういうものが嫌い」というさらに詳しいところで意気投合した。彼女と話す時は本当にどうでもいい話でも楽しかったしいつも聞いてて退屈なだけの相手の「自分の話」も強い興味を持って聞けた。意見が違う部分でもそれを納得して尊重できた。

ある時ふと自分彼女の事が本当に好きだと気付いた。この文字だけの関係が空虚で現実味の無い物で希薄なものだとしても、それでも俺は本当に彼女の事が好きだった。それでもやはり文字だけの関係はどこまでも希薄で吹けば飛ぶような物で、どんなに長い時間を積み重ねても、会って一日話すだけでその情報量を軽く超すような関係であることは明白だった。彼女と会って話をしてみたい。彼女の声を聞いてみたい。彼女の色々な表情を見てみたい。そう思った。折りしも季節は帰省シーズン。クリスマスなんてイベントが含まれていたりする。もしその日を彼女と過ごせたらどんなに良いだろうか、なんて甘い夢想を抱いたりした。

彼女には今彼氏がいない。彼女はかわいいので、きっとすぐに彼氏が出来るに違いない、と思った。彼女に会いたい。彼女に俺を好きになってもらいたい。そう思った。俺は勇気を出して訊いてみた。「クリスマス一緒にどっかに行かない?」

もちろん早計すぎることは恋愛経験値の低い俺でも目に見えて分かっていた。それでも訊かずにはいられなかった。

まぁ、もちろん答えはNOだった。後から判ったことなんだがクリスマスではないが俺より後から来た昔好きだった人からの誘いには乗ったそうだ(結局そのデートは実現しなかったそうだが)。

それでまぁ、それから何もないまま俺は実家から下宿先に戻ったのだが、誘って以来俺と彼女関係がぎこちない。彼女が喜んで飛びつきそうな話題をあからさまにしても滅多にそれに反応しないし、俺との関わりを出来る限り拒んでいるようにさえ見える。

そうなってしまった原因が100%俺にあることくらいはわかっている。会ったことも無い人間クリスマスに会うなんて女性にとって恐怖の何物でも無いに決まってるじゃないか。俺がいくらそんなつもりはなかった、と言っても下心が見え見えじゃないか。なんでそんなことにも気付かなかったのだろう、なんて後悔は今は置いておく。ただ今はもう二度と自分にとって大切な関係を失いたくない。もう一度彼女と屈託なく文字だけの関係でも良いからおしゃべりがしたい。それだけだ。一体どうしたら元に戻れるのだろう。

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