2008-05-09

科学技術と鉛筆について』

 科学技術といっても様々あるわけだが、俺はあえて鉛筆について書いてみたい。

 鉛筆と言うと「全然科学関係ないじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、実はここ十数年の間で最も進化を遂げているのが鉛筆である。

 昔は黒炭に布を巻きつけたものを鉛筆と呼んでいた。だから、今で言う鉛筆削りなどという作業は当時存在しなかったのである。

 クラスには必ず一人、布を巻き直す作業の名人がいて、休み時間になるとそうした子供の周りに輪が出来たものだった。足が速い、頭が良い、布巻きが出来るというのが男子の中でのステータスであった。

 それから四五年経つとようやく、木炭を木で固定した鉛筆が登場する。

 布で巻いた鉛筆は書く時に力を入れすぎるとすぐに折れてしまい、それだからこそ名人なんてものも出てきたのだが、クラスの床には黒炭の欠片が落ちてしまっていた。

 それが木で固定された鉛筆は書いている最中に折れてしまうことなんて滅多になかった。これは教室を綺麗に保とうとした教育委員会の働きかけもあって、あっという間に全国に広まった。

 ところで、当時は鉛筆を削るときにはみなナイフ使っていた。

 当時はとにかく物を大事にする時代だったから、切れ味の悪いナイフなんて一つもない。鉛筆を削る時にうっかり手を滑らしてしまい指を切るなんてしょっちゅうだったし、指が取れかけるなんてこともざらに起こったのである。

 ここでようやく、今現在我々が使っている鉛筆削りの原型が作られたのだが、いかんせん完成度が低かった。

 鉛筆削りに重要なのは角度だ、というのは今を生きる我々には当たり前の話だが、当時はそれが発見されるまでにずいぶんと多くの鉛筆が犠牲になった。角度が急すぎて鉛筆全体が円錐形になってしまうもの、進むにつれ広くなりひょうたん型の鉛筆にしてしまうもの、様々だったらしい。

 その様子は東京神田古本街の奥にひっそりと立ち並ぶ、知る人ぞ知る懐古博物館で見ることが出来る。

 こうして、幾つもの苦難を乗り越えて我々は鉛筆を自由に使うことが出来るようになったのだが、昨今はシャープペンシルの発達で鉛筆の需要は押され気味だ。

 科学技術の発展は我々を便利な方向に導いてくれるが、その過程で多くのものが作られ、そして忘れられていくことを、我々は頭の片隅に記憶しておくべきだろう。

  • 私はエンピツが好き。 試験の時は必ずエンピツ持って行くし、 集中して勉強する時もやっぱりエンピツ。 削るという面倒な作業は、思考をまとめる時間だったりして、 必要な時間のよ...

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