「終わりなき日常」って言葉がある。「平坦な戦場」って言葉がある。20世紀も終りの四半世紀に生まれた僕等は、ジャスコ化 する郊外にまでモノが溢れる一方で、決して歴史が生を意味づけてくれない世界に生きてきた。モノが溢れるその一方で、物語のない「平坦な戦場」は延々と続 く。あるのはただひとつ残された自意識のゲームだけで、それはこの世界に生きる限り毎日繰り返される。そう、「終わりなき日常」は辛いのだ。
だが、本当にそうだろうか。
本当に日常は「終わらない」のだろうか。
この世界にあるものは、自意識のゲームだけが渦巻く「平坦な戦場」だけなのだろうか。
そんなわけはない。例えば人は、大人になる、老いる、そして死ぬ。「終わり」はかならずやって来る。そう、本来、「終わりなき日常」も「平坦な戦場」も 存在しないのだ。
この世界には「入れ替え可能」なものの方が実は少ない。「終わり」がある限り、「いま・ここ」は基本的に「入れ替え不可能」な唯一無二の時間なのだ。
だから「モノは溢れても物語がない」と嘆く態度は、ただの甘ったれた言い訳なのかもしれない。少なくとも、「終わりなき日常」幻想を打破する程度の可能 性は、この世界に溢れている。
テレビドラマ『野ブタ。をプロデュース』はそんな世界の豊かさを背景に、そっと背中を押してくれる優しい作品だ。
主人公の修二は、そんな「自意識のゲーム」を周囲の人間関係をメタ視することで(自分を「演じる」ことで)軽やかにクリアしている少年だ。彼は「平坦な 戦場」というゲームの有能なプレイヤーなのだ。
だが、彼は薄々だが気付いている。このゲームは、教室という狭い世界でしか通用しないルールに基づいて行われている。そして、このゲームを楽しんでいら れるのは、ほんの僅かな時間なのだ……。
修二は、ひとりの少女と出会い、彼女にゲームの楽しみ方を、世界の豊かさを教えていく。そして、やがて修二も気付いていく。このゲームの外側にこそ、本 当に自分を支えるものがあることを。それを手にいれれば、きっとどこへ行っても、どんなゲームに参加しても生きていけることを……。
「ジャニーズ主演の学園ドラマ」ってだけで「なんとなく<敵>のような気がして」嫌う人もいるだろうし、この「時間をかけてじっくりと豊かな人間関係を はぐくんでいこう」というメッセージを素直に受け取りたくない人って多いと思う。まさに、蒼井のように(笑)。
このメッセージは「身近な人間関係」っていういちばんリアルなところを突いている。だから、耳に痛くて逃げ出したくなる人の気持ちはよくわかる。
そういう人に限って「こんな処方箋じゃ俺の深い心の闇は救われないぜ」って「酸っぱい葡萄」パフォーマンスに走りがちだ。たしかにこうすると「楽」には 違いない。等身大の自分に向き合うことから逃げて、「自分たちは深い心の闇を抱えた特別な存在」みたいなナルシシズムを確保できる。でも、これって世界一 安直な道の一つだ。
だから、そんな人は胸に手を当ててじっくり考えて見て欲しい。蒼井が凡庸であったように、ここで「素直になれない人」という時点で凡庸なのだ(というよ り、「特別な欠落を抱えている自分」というキャラ売りが大流行したのが95年からのこの10年だったわけだ)。でも、それこそ「キャラ売り」をテーマにし たこの作品の手に平の上にいる証拠なのだと思う。「こんな処方箋では自分の欠落を埋められない」と思っちゃった人こそ、むしろ、この作品の射程内にある。
文化祭のクライマックス、焚き火を囲んだフォークダンスが催されている。輪に入って楽しそうにしている人もいれば、輪に入れずに寂しそうにしている人も いる。
本当はもっと他にやりたいことがあるのに無理して輪に入っているのが修二、輪に入りたくても入れずに指を加えているのが野ブタ、輪の周辺でひとり大騒ぎ しているのが彰、そして本当は輪に入りたいのに「あんなものくだらない」と「酸っぱい葡萄」反応をしているのが蒼井だ。
そして、この物語は0(無理して輪に入る)でも1(本当は入りたいくせに「酸っぱい葡萄」反応)でもなく、ほどよい距離を取れるようになっていけばいん だよ、それも時間をかけて、仲間と一緒にじっくりやっていけばいいんだよ、という優しいメッセージで背中を押してくれる。
だから、全国の「酸っぱい葡萄」反応しちゃう人はまず、この作品をきっかけに出来る範囲でいいから素直になる練習をしてみたらいいと思う。今すぐには出 来なくてもいいし、ひとりでやらなくてもいい。何年かかってもいいので、ちょっとずつ歩んでいけたらいい。
いや、今は「酸っぱい葡萄」をやっていてもいいのかもしれない。
でも、そんな自分が嫌になるときが必ず来る。
そのときにふとこの作品のことを思い出してもらえたらいいなと僕は思う。
誰にも言わなくていいのでこっそり「野ブタパワー、注入」してもらえればいいんじゃないかって、今はそう思っている。
宇野常寛みたいな事を言うなあ。 野ブタみたことも読んだこともないんだけど、小説とドラマどっちがおすすめ? エロゲで言ったら虚無的で図書館でむくれてる主人公が活発でぽんこつ...
小説もドラマも知らないけど、ドラマのヒロインに相当するキャラが小説だと男なんじゃなかったっけ? (男同士の話じゃ売れないから女にしたと言うだけだろうけど)