2007-11-21

三千世界の烏を殺し、主と昼寝がしてみたい


25日 12:10

呪泥怨愚を名乗る犯人から最初の電話があった。

「呪泥怨愚だ。息子をあずまんが大王みのもんたを用意しろ」

電話をとったのは、家族の長であり、一家の大黒柱を自負する失職中の夫。夫は、犯人の声を聞き、息子が誘拐された事を即座に理解すると同時に自分の命よりも大切な息子を失う未来想像し恐怖に襲われながら、毅然とした態度で答えた。

みのもんたは無理だ。今おもいっきりテレビに出ている」

「じゃあ、息子は諦めラメロスペシャル

「待て。他の条件ならのもう。みのもんた以外の条件だ」

みのもんた以外の条件はのめない」

それから夫と犯人押し問答が繰り返されるが、犯人の要求は断固として変わらず、挙げ句には「みの」「みのも」「もんちゃん」「みもんた」などの呼び方を使い始め、夫は戸惑うばかりであった。そのやりとりおもいっきりテレビが終わるまで続いたが、犯人は「また明日連絡する」とだけ言い残し、電話を切った。

夫は緊張と疲労でその場に崩れ落ちた。

後に夫は語る。

「腸が煮えくり返るような犯人への怒りと、首筋に氷を押し当てられたかのような息子を失うことの不安を同時に感じていました。まさに冷静と情熱の間でした。いや、とにかく、恐ろしかったです」

26日 12:08

呪泥怨愚から二回目の電話電話をとったのは依然失職中の夫。今度は傍らに妻が、そして周囲には警察がいた。

「呪泥怨愚だ。息子は東幹久みのもんたを用意しろ」

「何度も言わせるな。みのもんたは無理だ。息子を返せ」

「それなら取引はお終いだ」

警察からの引き伸ばしてのジェスチャーがされる。事前に犯人との会話を出来るだけ引き伸ばすよう説明を受けていた夫だったが、極度の緊張と、息子を思い一睡もできなかった事による疲労の蓄積が、彼に冷静な判断をさせなかった。

夫は受話器に向かって叫んだ。

「お終いも獅子舞もあるか! 息子を返せ! さもなくば、さもなくば」

激昂する夫に、止めようとした警察も、泣いていた妻も注目し、その後の言葉を待ったが、別段考えがあったわけでもない夫は恥ずかしそうにもごもごと呟いた。それぞれは持ち場に戻った。

「さもなくば、息子は帰ってこない。みのさんを連れて来い」

そしてまた、犯人により電話は切られた。

とたん、警察が動き出す。ピザ屋に偽装した刑事は傍らのラーメン屋バイトに偽装した刑事と素早く情報を交換する。「逆探知は」「携帯電話から。近くです」「連絡!」「もうしてます」「よし」「発見しました」「早いな!」「しかし」

警察の大人数を導入した捜索により、電話開始より12分で犯人携帯電話発見した。

しかしそこに犯人の姿はなく。電柱にくくりつけられた携帯電話と、携帯電話セロテープでくっつけられた糸電話があるだけだった。糸電話の向こうに犯人がいるはずと糸を辿り走り出した若い刑事現在行方不明である。

27日 12:22

三日目。まだ電話はかからない。

電話機の前に、腕を組む夫、泣き続ける妻、声を潜めて何事かを話し合う警察の面々が揃う。

テレビにはみのもんたが映っている。わずかに眉間に皺を寄せ、悩み相談の声を聞いている。

夫は憎憎しげに吐き捨てた。

「悩んでいるのはこっちの方だ……」

そのときだった。

顔を伏せて泣いていた妻が、電話に飛びついた。電話機を抱え、いつの間にか手に持っていた耳かきで、止めようとした警察と夫を牽制する。

妻は血走った目でどこかにコールする。やがて、コール音が止むと、妻の目はまた潤み始めた。

みのさんですか?」

モニターの中で、みのもんたが、答える。

「何か、お悩みですか。奥さん」

妻は泣きながら、息子が誘拐されている事をみのもんたに話した。警察電話を止めさせようとするが、妻は既にみみかきを半分以上耳の中に入れていて、危なくて近づけない。夫は大人しかった妻の言動に驚くばかりであった。スタジオにいた芸能人達も、突然のハプニングに騒然とした雰囲気となるが、みのもんただけが表情を崩さず、冷静な声色で相槌をうっていた。

「それで」「うん。それは酷いね」「そう」「なるほど」「奥さん、偉いよ」「わかった」

妻が語り終えた後、泣き声が止むのを待って、みのもんたはやさしく声をかけた。

「それで奥さん。どこにいけばいい?」

妻が息を呑み顔を挙げ、テレビの中のみのもんたを見た。夫も警察モニター凝視して、ぽかんと口を開けている。モニターの中のみのもんたは、そのどこを見ているかわからない危うげな目線で、確かに妻を見ていた。そして、みのもんたスタジオをあとにする。テレビカメラがそれを追いかける。みのもんたは迷いなく日本テレビ階段を上っていく。みのもんたエレベータを使わない。一歩一歩踏みしめるのが好きなのだという。そうやって生きてきたのだ、恥ずかしそうにインタビューに答えた事がはるか昔に一度だけあった。

みのもんた日本テレビの屋上の扉を開け、吹き込んだ風に目を細める。そこには既にミノコプターが用意されている。

夫の携帯電話犯人から電話がかかる。

「呪泥怨愚だ。そのまま、真っ直ぐ東に飛べ」

28日 8:20

突如、ばりばりという音が響き渡り、驚いて夫と妻が家を飛び出すと、黒光りするミノコプターが目の前の道路に着地するところだった。強風に目を細めながら、夫婦は見た。ミノコプターの扉が開き、そこから最愛の息子が降り立つのを。

しかし、そこにみのもんたの姿はなかった。

28日 10:30

一人の刑事子供の戻った夫婦の元を訪れる。

笑顔の戻った妻が、刑事を迎え入れた。

「息子さんが戻って、本当に良かった」

ありがとうございます。あなた方のおかげです」

「いえ。今回警察は何もできなかった」

「そんなことは」

「そんなことはあります。奥さん。我々はあなたにしてやられてしまった」

妻のコーヒーのカップを持つ手が止まる。まだ夫は刑事言葉を理解できない。刑事は止まった空気を振り払うように手を振り、にこやかに笑う。

「いや、奥さん。そんなに睨まないでください。私は私の見解を述べているだけです」

妻は、刑事の動向を探りつつ、コーヒーを飲む。

「ですが、聞いてください。これは刑事の独り言。ある事件の顛末です。子供誘拐から始まったその事件の犯人母親だった。もちろん誘拐狂言。最初の電話母親パート先に記録が残っている。出たのは夫だ。意味不明言葉を混ぜる事で、夫にばれないように工夫しているつもりだった。夫は気付かず、事態は思った方向に進む。次からは母親電話にはでない。電話をしたのは誘拐された息子。母親は息子が誘拐された悲しみで精神変調をきたした役を演じる。そして、茶番テレビの中に飛び火する。全てはそのため、みのもんたを引きずり出すため。何故このような手順を踏んだのか。それはみのもんたを試す意味もあった。手の込んだ嫌がらせともとれます。でも真相はもっと捻じ曲がった所にあると思います。私がこの荒唐無稽ストーリィを思いついたのは、私がそのような荒唐無稽な思考を行う人間達を知っていたからです。その人間達は、タモリ同盟と呼ばれている」

「ふふ、ふふふふふふ」

突如笑い声を上げた妻に、夫と刑事はぎょっとする。

「失礼。あんまり面白い事を言われるから。でも、いいんです。好きですよ。そういうの」

「そうですか。一つだけ聞きたい。今みのもんたはどこに?」

「知りません。知る由もありません」

妻は窓の外を眺め、呟く。それは彼女の本当の主人が言った言葉

「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」

28日 11:55

霊峰富士。かつて天皇不老不死の妙薬を燃やした場所。

「こんな形で、お呼び出しして申し訳ありません」

「いやいや、驚きました。ですが、こんな形でしか、ありえないでしょう」

「では始めますか」

「では」

互いが互いにマイクを投げつける。

太陽は真上。容赦のない紫外線が二人の男に降り注ぐ。だが二人の男は不敵に笑う。

黒いサングラスは何のためだ。必要以上に黒い肌は何のためだ。

太陽を制するため』

男達は笑いを止める。

目の前の男は同じく覇道を歩むもの。だが王は独りでいい。

二人の昼の王は、互いに歩き出す。次第に歩みを早め、そのスピードが、空気との摩擦熱が炎となって二人のスーツを焦がす程になった瞬間、二つの影は交錯した。

20年続いた「午後は○○!思いっきりテレビ」が終了。これはその終わりに起こったことだ。

第二回ファック文芸部杯参加

http://throw.g.hatena.ne.jp/sasuke8/20071130/p1

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        • anond:20080805200518

          「ボードゲームオタが非オタの彼女に世界のボードゲームを軽く紹介するための10本」 したかったなー。終わっちったか。

          • http://anond.hatelabo.jp/20080805201046

            それは俺が見たいから是非やってくれ。 レーベンヘルツとかカタンとかプエルトリコとかあの辺を無理矢理紹介するのはちょっと見たい。 (無論ボードウォーゲームでも可)

            • http://anond.hatelabo.jp/20080805201521

              報告まだでした。 http://anond.hatelabo.jp/20080805205151 こんなもんでどうでしょうか。 私のこういう意図にそって、もっといい10本はこんなのどうよ、というのがあったら 教えてください。

            • [neta] オタが非オタの彼女に軽く紹介する10のボドゲ

              そういえば書いてたんだった(コピペに20分くらいで手を入れれば誰でも書けるし、くだらないので参考にしないでください)。500本くらい遊んだ人ならもっと適切で面白いチョイスができ...

        • http://anond.hatelabo.jp/20080805200518

          頑張れ!妖怪モトマスダ! もしかして「軽く紹介するための10本」シリーズは全て目を通しているのか! どんだけオタクだよ!かっこいいな! その二つを書いた人じゃないけど、ネタを...

      • http://anond.hatelabo.jp/20080805014559

        ちょっと前のやつだけど、これ見てちょっと驚いた。 この中の5つのエントリ、自分が書いた奴だった。 地味に嬉しかった。

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