女性と懇ろになれない。
そんなことを考えながら、昼過ぎに気怠い体を引きずって出社した。
気怠いのは低気圧のせいである。
低気圧悪。
しかるのち台風となった。
なるほど道理で気怠いわけである。
台風悪。
猫の額ほどの大きさの机に向かい、珈琲を啜り、黙々と単純作業をこなす。
あと1000万回ぐらい同じ事をしていたら、千載一遇の出会いでも訪れはしないか。
1000万回同じ事をするのには何年かかるだろう。
ザッと見積もって200年ぐらいだろうか。
200年過ごすにはどうしたらよいだろう。
5年間寝ていれば、40回目の目覚めの時に200年後を迎えられる計算である。
三年寝太郎ではなく五年寝太郎になればよいのである。
そんなことは小学生でも知っている。
五年寝太郎が起きたとき、世界は変わっているだろうか。
存外そのままのような気がする。
世界がそのままであったから、三年寝太郎は眠りから目覚めた後に灌漑事業を始めたのである。
しかし、靴の踵の部分のゴムが異常に磨り減る。
買って1ヶ月も経たないうちに半分まで磨り減った。
あと1ヶ月経ったら修理に出さねばならぬ。
不憫である。
殊に左足の踵のゴムだけ異常に磨り減る。
私はこれを世界七不思議の一つだと思っている。
どうして左足だけ磨り減るのか。
地面が傾いているせいだという仮説を立ててみたが、すぐに否定された。
東京にある上り坂と下り坂の数はどちらが多いか。
答えは同数である。
上り坂で踵を返せば下り坂だからである。
だとするならば、往路の右に三度傾いている道路とは、即ち帰路の左に三度傾いている道路と等しい筈である。
等しい道路で片側だけ削れていくのは道理に適わない。
人間として軸がぶれているせいで、僕の体が常に左に1°程傾いているのだろうか。
それとも5ミリほど左足が長いのであろうか。
或いは平素持ち歩いている重さが5キログラムほどある鈍器と化したバッグを肩に掛けているせいであろうか。
何れにしても七不思議を解くことは容易ではない。
余談であるが、七不思議の2つめは、なぜ女性の後ろを歩くと良い香りがするのか、と言うことである。
風呂上がりでもないのに、良い香りがするのはおかしい。
女性には良い香りを出す微生物が皮膚に巣くっていて、良い香りを絶えず生産できる仕組みになっているとでも言うのだろうか。
男性には悪臭を放つ微生物しか巣くわないのは全くもって不公平である。
良い香りを出す微生物に置き換えて欲しいものである。
残りの5つの不思議はこれから見つけようと思う。
然るに、気違いであるまいとするから気違い扱いされるのである。
であるならば、気違いとなってしまえばもはや気違いではないのではないか。
そうにちがいない。
世界の端に腰掛けてスープをすすりながら、そんなことを考えていた。
しかし、気違いになるのは難しい。
気違いの演技であったとすると、本質は気違いではないということであるから、気違い扱いされてしまうのである。
これでは問題解決にならぬ。
4万円のブルゾンと引き替えに得たものは何だったのだろうか。
願わくは懇ろになりたいものである。