いつもアイツは俺の前を走っている。400mトラックの半ばで、アイツは颯爽と俺の横を通りすぎて行く。毎日走り込んでいるはずなのに、毎日筋トレしてるのに、アイツはそんな俺のことなどまるで構わないかのように、俺の前を走って行く。どんなに息を切らしても、どんなに心臓を打ち鳴らしても、俺の体はまるで言うことを聞かなかった。
「くそおおおおおおっ!!!!」
気がついた時には、誰もいないところで地面に無かって大声で叫んでいた。がんがんと地面を蹴飛ばし、石を投げつけ、思い付く限りの罵倒の言葉を投げかけようとするが、すぐにボキャブラリが尽きて、またむしゃくしゃする。
そんなある日、俺がいつものように学校へ行くと、アイツが何か探しものをしている。何を探しているのかと聞けば、時計だと言う。祖父がくれた黒いラバーバンドの腕時計。今にも泣きそうなアイツを見て、俺は今までの悔しさがすっと消え、ささやかな優越感に浸ることができた。そして、にこやかに「大丈夫、一緒に探そうぜ!」と元気のいい声をかけて、アイツと一緒に時計を探してやった。時計はロッカーの奥の見えないところに落ちているのを俺が発見した。アイツは俺に何度も「ありがとう」と言い続けた。
放課後、俺が400mトラックを走っていると、やっぱりアイツは一周差をつけて俺をぐんぐん追い抜いていく。さっきまでの優越感が一瞬で消え、「アイツに勝ちたい」その一心で体にムチ打ち続けた。そして、放課後にまた吠えた。
そんなこんなを繰り返しながら、やっぱり俺はアイツに追い抜かれ続けた。来る日も来る日も。はじめて付き合った彼女の前でさえ、俺はアイツに追い抜かれた。それからはもう執念というより、憎悪の塊のような思いで、俺は走りつづけた。だが、そんな俺があまりにも恐い顔をしていたのだろう。彼女との付き合いも薄れ、テストの点も落ちた。何より、皆が俺に話しかけることを躊躇しはじめたのを薄々感じていた。
ある日、俺は寝坊して、慌てて家を飛び出した。いつもの道路、いつもの交差点、そしていつもの曲り角。学校の玄関。
俺が靴箱に靴を放りこんだとき、何とアイツも玄関に走り込んできた。ぜえぜえと息を切らせながらアイツは俺に、「よう、今日は僕に負けなかったじゃないか。走ってる最中に君の後ろ姿ばかり見せつけられるなんて、僕もついにヤキがまわったのかもな、あははっ。」と言った。なぜかそれは精一杯の嫌味を言っているように聞こえた。ぜえぜえと息を切らせながらも、俺を見るなりむすっとした表情で「おはよう」とだけ言うと、俺の横をすり抜けて教室へと駆け込んで行った。もしかしてずっと俺の後ろを走ってたんだろうか。
もちろん、スタート地点は俺の方が前だったかもしれない。でも、今日はアイツに負けなかった。それだけで、俺はちょっぴりうれしかった。肩からすうっと力が抜けていったような気がした。
「よう、今日は僕に負けなかったじゃないか。走ってる最中に君の後ろ姿ばかり見せつけられるなんて、僕もついにヤキがまわったのかもな、あははっ。」 口に出して読んでみろよ...
さんくす。確かにセリフが臭かったから、修正してみた。
おー、なるほど。俺なら台詞自体を改変するところだけどそうきたか。やっぱ俺才能ねぇ。