両手でつり革に捕まりながらふらふらしているおじさんがいた。そこそこ高齢にも見えるし、明らかに酔っぱらっている。なんか危なくて見ていられなかったので、席を譲ろうとしたら「酔ってない酔ってない」なんていう。いやいやいや。酔ってますから。自覚ない時点で危ないですから。呂律がまわってないですよ。あと酒くさい。でも座ろうとしない。結局僕は降りるまでそのおじさんと話した。
おじさんは酔っていた。何度も年齢を聞かれた。学生だと答えたが、やたらと出世しろといわれた。出世のまえに就職だと思ったが黙っていた。しかし60歳と言っていたが、そんな定年間近になっても出世というのはつきまとうものなんだろうか。退職金とかが現実的になってきて、もしかしたら一番意識させられる時期なのかもしれない。退職してしまえばその呪縛からも解き放たれるんだろうか。そうであればいいと思った。
おじさんはなんかご機嫌で、いまから飲もうと誘われた。断ったけど。正面の席があいたので強引に座らせた。まもなく僕が降りる駅に着いた。ちゃんと家に帰ってくださいよと声をかけて電車を降りた。駅から自宅までの帰り道で気になった。こっちが座らせておいてなんだが、眠ってしまうのではないか。あの人は、ちゃんと降りるべき駅で降りただろうか。