ここの使い方ってなんなんだろうね。
「バレンタインデーは菓子会社の陰謀だ!ホワイトデーに3倍返しだと!?ふざけるな!女は皆死ねばいいんだ!マスコミの恋愛至上主義に踊らされやがって!なぜそれがわからない!」
「…ずっとこの調子です。二人きりで話なんてできるわけがない。」
「いや、刑事さん。どうしても二人だけで話をさせてください。この症例には心当たりがあるんです。そうでなければ鑑定できません。」
―何かあったらすぐにやめさせますよ
そういった不満げな顔の刑事を部屋の外に残し、佐藤は取調室に入っていった。
「俺をここから出せ!今すぐこんな腐った世界は今すぐにでも壊さなければならない!」
「はじめまして。あなたの担当をさせて頂くことにな…」
「出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!」
「落ち着いてください。」
「出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!出せ!」
「いいですか。
あなたのいま感じている感情は精神的疾患の一種かもしれません。しずめる方法は私が知っています。私に任せてくれませんか。」
「ちょう・・・せん・・・せ・・・」
佐藤の言葉を聞いた男は、何事かつぶやいた後にまるで火が消えたように大人しくなった。
「さて。やっとお話ができそうですね。単刀直入にお尋ねします。あなたはアダルトゲーム…エロゲーですね。を遊ばれた事は?」
「…あります」
「やはりそうですか。それもかなりの頻度でプレイされている…」
「はい」
「では、もう一つお尋ねします。とは言っても別に答えなくても結構なんですが。
あなたは特定の女性と親密な関係になり、性的交渉をもたれたことは?」
「なぜそんな事を聞くんだ!お前も恋愛で人間としての価値の全てを決める屑なのか!」
「いいですか。これはどうしても必要な事なんです。私は貴方と同じような状態になった方を何名も見てきました。そして彼らには共通するう特徴があったんです。それが全員アダルトゲームの愛好者であったこと、そしてもう一つは今まで一度も恋人と肉体的な関わりを持たなかったこと。です。」
「ゲームの趣向と今回の件は全く関係ない!エロゲは現実逃避でもない!仮想と現実の区別はついている!」
「別にアダルトゲームが悪いというわけではありません。ただ…全員恋愛面では恵まれていなかった。正直なところ見た目でそれがわかるほどに。つまり、普段殆ど恋愛に縁のない人間だった。」
「ある年齢を超えた場合、独り身の人間に向けられる周囲からのプレッシャーというのは精神的にかなり厳しいものです。そこで心を病んでしまう人もいます。ただ、今風の恋愛の輪の中に入っていない人、そういった人で全く色恋から外れて周囲に異性も居ない人はそれほどショックは大きくないんですよ。でもアダルトゲーム愛好者は常時その恋愛という物にどっぷりと浸かってしまっている。それでも、ゲームはゲーム区別はついていると全員言っていましたし、実際に調べてみても現実と虚構が混ざっているような人は居なかった。でもね、たとえ虚構だとしても恋愛のプラスの部分だけ、付き合ったあとの事嫌な事も描かれない物語は恋愛の特に甘ったるい所だけを煮詰めたようなものです。幸せな恋愛をして最後に性的な交渉を持つ。こういった物語をたとえ虚構だとわかっていてもずっと見続けることで精神的に影響があるのではないか、と私は見ています。
独り身で毎日がクリスマスのような街の結婚相談所に就職したような状態を想像してみてください。耐えられそうですか?自分が得られなかった物、自己の肯定、そういった物が揃っている現実を次々と見せ付けられる。物語だとわかっている事が全ての抑止になるわけではありません。物語というのはわかっていても、どうしても現在の自分の境遇と無意識のうちに比べてしまう。こんな恋愛があり従順で可愛げのある女の子が自分の周りいるのか?その欠片すら現実の女性は持っていないのではないのか?現実と虚構の満たされなさは膨らんでいきます。
常時こういったゲームを主にやり続けて行くという事は傷口に塩をすり込む様な事を何年も続けていく事になるのだと思います。気が触れるというのはある日ある出来事が原因で突然起こる事はまずありません。大抵は心を蝕む原因があってそれが長い年月をかけてゆっくりと心を捻じ曲げていくのです。貴方の女性に対する嫌悪と怒りの根源はなんなのか考えたことはありますか?現実と虚構の区別がつかないのではなく、これは精神疾患の一種ではないか、と私は見ています。」
「・・・そんな事はない。現実の恋愛には興味はない。そういった世界とは隔絶している。あくまでゲームは・・・趣味だ。」
「そうですね。それでもはこう考えられませんか?貴方はゲームの登場人物に対して特別な思いを抱いているはずです。貴方は今までプレイしたアダルトゲームの数を覚えていますか?そのゲーム、買い集めたその登場人物のグッズそういった物があるわけですよね。でも、貴方がこれから先女性に傷でも負わせるような事件を起こしてしまったとする。するとその…『彼女』達はどうなるんでしょうね。物語の人物ですよ。貴方以外に誰がその存在を認められるんですか?普通の人々には単なる紙やデジタルデータでしかない物から価値を見出して保存してくれるといいですけどね。」
「・・・・」
「でも、現実はそうじゃないはずです。それは現実と虚構の区別がついている貴方にならわかるはずでしょう。これからの自分のために、過去の思い出も守るために。貴方には治療が必要なんですよ。中毒を治さないといけないんです。ゆっくりとプレイする回数を減らしていきましょう。まだ貴方はやり直しがききます。」
「わかりました。よろしく・・・お願いします」