2007-03-11

なぜ、きみはそんなにうれしそうにわらっているんだい?

バイト中、である。そろそろ日付が変わろうとしてる。午後11時33分。今日の業務も終わりにちかい。

はやくかえりたい。きのうは徹夜だった。朝になっても眠れなかったからそのまま出勤した。眠い。あくびをかみ殺す。

24時間前に来ればよかったのに。眠気。

見本を受け取りに3階へいく。最近は規則が厳しくなった。デスクにその旨を伝えバイトICカードを受け取る。

このバイトをはじめて2年以上経つ。なんだか最近はとてもたいくつだ。

もう一人のバイトさんはもう帰ってしまってオフィスに居るのは僕とデスクだけ。

まあ彼が居てもあまり話さないのだけど。

非コミュ。お互いに。

趣味は似てるんだけどな。嫌ってわけじゃない。むしろ金曜のバイトはお喋りしなくて良いから楽。

火曜に一緒になる女の子はお喋り好きでどうにも疲れる。可愛いんだけどね。どうにも疲れてしまう。

ふたりとも別に嫌いじゃない。これ以上仲良くはなれないだろうけど。

エレベーターで6階に降りる。すっと引っ張られるような感覚。三階下におりる。目的の部署へ向かう。

おつかれさまでーす。ありがとうございまーす。

脊髄から出てくる言葉意味のない。社交辞令? たいくつだ。とても。

ここ1年くらいはもう何も考えずに仕事が出来るようになっている。

だから徹夜明けなんてナメた体調でも仕事ができる。

はぁっ。とため息をつく。何もかもおもしろくない。数ヶ月間この状態だ。

まったくあきれてしまう。自分の弱さに。彼女に振られたくらいで。

なんだか胸にあいた穴をついばまれているような感覚。最近はもうめっきり仲良しです。憎らしい。

安っぽいな。そう思う。

テレビドラマなんてもう何年も見てない気がするけど、そこで繰り広げられる安っぽい恋の話よりも安っぽい自分を。

ぐるぐるとまわる。あたまのなか。眠い。頭はぼけーとしている。傍目に見てもフラフラしているかもしれない。

でも慣れきってしまった僕はそれでもカンペキ仕事をこなせる。バイトをしている最中の僕は人としては死んでいるかもしれない。

人形機械

まあどうでもいいや。時給高いし。見本は受け取った。

自分の部署へ戻ってファックスNYにしゅるりるると流し込んでメールを送って確認を入れればもうこんなところとはバイバイ。

ああ、おもしろくない。おもしろくない、かわりばえのしないルーティンワーク。

ため息のかわりにあくびをかみ殺す。極力フラフラしないように足早にそこから去ろうとする。

そんな僕の目の端にテレビ入り込んでくる。

何かのCMらしきものがやっている。

そこではとっても綺麗な切れ長の目の女の子ドレスを着て優雅に歩いていた。

なんて名前の子だったかな。柴咲コウにちょっと似ている。

流れるような動作。美しい。風のように流れていく。ひゅらりと。多分とってもいい匂いがするんだろう。

彼女が振り向く。投げかけてくる。蠱惑的な視線。

しなやかな長い指でポーチから何かを取り出す。たったそれだけの動作すらセクシーだ。

とても大事そうに、うっとりとそれに視線をおとす彼女

潤んだ瞳のその先にあるのは銀色デジタルカメラだった。

相変わらずあつく潤んだ瞳は今度はテレビの前の僕の方に向けられている。

一瞬の後、彼女の姿がぼやけていき商品の名前が出てCMは終わった。

僕は唐突に笑い出したくなった。滑稽だった。

彼女に振られたくらいで死にたくなるような気分におそわれている僕が。

「これって新製品なのよ。すごいでしょう?」とでも言いたげに艶やかにわらう女が。

別れた後にも『貴方のこと、尊敬してるし、人間として大好きだから、友達でいたい』なんていう僕の恋人だった女の子が。

そしてそれを受け入れてしまって、ことあるごとに「以前」に戻ってしまった彼女態度を実感して傷ついている僕が。

ははは。なんだよもう。すべてがやすっぽい。滑稽だ。おもしろすぎる。

徹夜明けのぐちゃぐちゃした頭の中がほのかに熱を帯びてくる。

我慢してもにやけ顔はとまらない。僕はおおいそぎで仕事を片付け、まだ寒い、そして誰もいない夜の大手町に駆け出すと、大声でわらった。

わらいつづけた。なみだがでてきた。

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