「田原睦夫」を含む日記 RSS

はてなキーワード: 田原睦夫とは

2012-12-09

最高裁裁判官国民審査

再来週は選挙なわけですが、それと同時に最高裁裁判官国民審査も行われます

普段はなにも考えずに無記入で投票してきた私ですが、今回は考えさせられる記事を幾つか目にしたため、考えを表明しておきます

江川紹子 選挙後に「こんなはずでは」と言わないために》

http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/politics/elex/gooeditor-20121205-01.html?pageIndex=2

簡単に抜粋

 今年、再審無罪となった東電OL殺害事件では、一審が「疑わしきは被告人利益に」
 という刑事裁判の鉄則に忠実に無罪判決を出したのに、東京高裁がそれをひっくり返
 して有罪とし、最高裁がそれを追認した。このような明らかな誤判があっても、誰も
 何の責任もとらないどころか、なぜ間違ったかという検証さえ行わない。誤判で無実
 の人を刑務所に送り込んだ3人の裁判官のうち2人は今も現役で、出世街道を進み、
 今は東京高裁東京地裁裁判長だ。

 このような状況に対する批判も込めて、私は全ての裁判官に×をつけようと思う。10
 人に×をつけるので、勝手にこれを「×10(バッテン)プロジェクト」と名付けてみ
 た。

これだけの記事であれば、

・そうかぁ「全部×」を入れる人ってこういう人たちなんだろうなぁ。。

・それって、単に妬ましいだけなんじゃないのかなぁ。。

・わざわざ他人を否定するために「×」を書くのってネガティブで気がひけるよなぁ。

というのが正直な感想

なんだか性悪説に基づいているみたい。

それならばむしろ人を信じる意味でも「×」は書かないで信任したい。うん、立派な裁判官たちのはずだ、と思いたい。という気がします。

しかし、次の記事を読んで、ちょっと考えを改められました。

さすがマッキンゼー出身(と思われる)Chikirinさん、Q&A形式になっていてとても読みやすいし、論点もまとまっていて分かりやすいです。

下記の記事はできればリンククリックして全部読んでみてください。。

《Chikirinの日記 国民審査一票の格差

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20121206

 Q9.でも、過半数の不信任がないと罷免できないんだから、ちゃんと意思表示して
    も無駄なんじゃないの?

 そんな気もしますよね。でも、ちきりんは違う考え方を持っています。下記は前回の
 国民審査の結果です。

 <前回、2009年8月国民審査の結果>
 氏名(元職業) 	罷免要求票数	率%
 桜井龍子行政官)	4,656,462 	6.96
 竹内行夫行政官)	4,495,571 	6.72
 涌井紀夫裁判官)	5,176,090 	7.73★
 田原睦夫弁護士)	4,364,116 	6.52
 金築誠志裁判官)	4,311,693 	6.44
 那須弘平弁護士)	4,988,562 	7.45★
 竹崎博允裁判官)	4,184,902 	6.25
 近藤崇晴裁判官)	4,103,537 	6.13
 宮川光治弁護士)	4,014,158 	6.00

 率のところに★記がある2名の裁判官は、この審査の前に、「一票の格差憲法上問
 題ない」というトンデモ判決に賛成していた2名です。ちゃんと不信任率が高いです
 よね。
 さら東京都神奈川県などの都会部(一票の価値において非常に軽んぜられている
 地域)では2人の罷免要求率が10%を超えるなど、より明確な結果が出ています

むむ。

正直10名の名簿をみても誰が誰だがわからない、ってのも「×」を書きにくい一つの原因ではあるのですが、ただ、上記のように人によってブレがあるということは、見ている人は見ているんだなぁ、、という気もします。

ただ、国民審査では今まで罷免された人はおらず、最高でも15%程度しか行っていないとのこと。

ということは、見ている人が見ていても、ほとんどの票が白票(信任票)になっているため、見ている人の判断が活かされてない状態になっている、とも考えられます

とするならば、全部「×」を書くという行動は、以下の考え方をすることもできないだろうか?と思いました。

自分は10人の裁判官の誰が誰だかよくわからない。。

ネットで探すも、どうも意見が偏っているようで信じがたい側面もあるし。

・ただ、世の中で言われているように、一票の格差問題は合憲とかいちゃう裁判官もいるし、検察の異常な取り締まり放置している裁判官もいるのは事実

最近、偽装クリック誤認逮捕されて、自白を共用された冤罪事件もありましたよね・・・。)

・でも、世の中にはちゃんと見ている人は必ずいます。結果にばらつきがあるのがなによりの証拠。

であるならば、その人たちを信じて、判断を委ねてみるのはどうでしょう

・具体的には、票に「全部×」を記入して、罷免要求率のベースを上げるのです。

・少なくとも、今の状態ではちゃんと見ていて投票している人が報われない仕組みになっています

・そういう人たちを助けるために、罷免要求率(×)のベースを上げる取り組みの手助けをするのです。

決して他人を否定(罷免)するというようなネガティブ感覚から投票するのではなく、ちゃんと見ている人を信じて、その人たちを助けるために投票してみませんか?

という考えに傾いてきた時に、ダメ押しの記事。

あの"おだじまん"が柄にも無く関連記事を。(笑)

小田嶋隆ピース・オブ・警句 最大与党を代表して一言

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20121129/240317/?P=5

  総選挙と並行して行われる最高裁判事国民審査については、はっきりしている。
 私は、こんなにバカげた制度は無いと思っている。

  「×をつけなかった場合承認したと見なす」

  という設定が、そもそもどうかしている。

  どこの商店でも、どんなお見合いでも、「選ぶ」「承認する」「賛成する」「結婚
 する」という決断は、「棚から手に取る」「◯をつける」「クリックする」「レジに
 持っていく」「プロポーズする」という、消費者ないしは選択者の側の「積極的な行
 動」を待って成立することになっている。

 「×をつけない以上承認する気持ちがあったはずだ」

 という類推は、一種の詭弁だ。背理法。まるでたちの悪い法廷じゃないか

まぁ確かに。(苦笑)

おかし制度ですよね。

そんな制度は変えなくちゃですよね。

同意されたかたはぜひ、最高裁裁判官国民審査票には全部「×」を。

2011-09-05

寝顔の撮影、「卑猥な言動」入り?

電車内で女性の寝顔を無断撮影盗撮容疑で逮捕

 千葉県警松戸署は4日、電車内で女性の寝顔を撮影したとして、松戸市会社員(46)を県迷惑防止条例違反盗撮)の疑いで現行犯逮捕した。

 発表によると、会社員は4日午後11時40~45分頃、JR常磐線北千住松戸駅間を走行中の下り快速電車内で、右隣に座って寝ていた我孫子市女子専門学校生(24)の顔など上半身携帯電話カメラ盗撮した疑い。専門学校生シャッター音に気づき会社員を取り押さえた。「かわいかったので撮ってしまった」と容疑を認めているという。

 同条例では、相手に羞恥心を与えるような行為を禁止している。

2011年9月5日11時55分 読売新聞

http://b.hatena.ne.jp/entry/www.yomiuri.co.jp/national/news/20110905-OYT1T00316.htm

千葉県の県迷惑防止条例とは、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」かと思うが、同条例盗撮自体を禁止していない(記事に県迷惑防止条例違反(盗撮)とあるのは疑問だが)。

おそらく、同条例3条2項のことだろう。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(千葉県)

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)

第三条 (略)

2 何人も、女子に対し、公共の場所又は公共の乗物において、女子を著しくしゆう恥させ、又は女子不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も、同様とする。

以下略

(罰則)

十三条 第三条第二項、第十一条又は前条第一項の規定のいずれかに違反した者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2 常習として第三条第二項、第十一条又は前条第一項の規定のいずれかに違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

http://www.pref.chiba.lg.jp/reiki/33990101003100000000/33990101003100000000/33990101003100000000_blk0.html

したがって、寝顔の無断撮影につき「女子を著しくしゆう恥させ、又は女子不安を覚えさせるような卑わいな言動」である千葉県警松戸署は判断したことになる。

特に撮影は要件ではない。あくまで「女子を著しくしゆう恥させ、又は女子不安を覚えさせるような卑わいな言動」にあたるか否かだ。

 

この点について、比較最近判例(最3小平成20年11月10日刑集62巻10号2853頁)がある。

北海道迷惑防止条例に関する判決だが、「卑わいな言動」について判示している。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37011&hanreiKbn=02

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090203172548.pdf

asahi.com朝日新聞社):無断でお尻撮影ズボン姿でも「卑猥」 最高裁判断http://b.hatena.ne.jp/entry/www.asahi.com/national/update/1113/TKY200811130077.html

多数意見の判示するところによると、

憲法31条,39条違反をいう点については,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

まり、「卑わいな言動」とは社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」のことである

もっとも、これは北海道迷惑防止条例に関する判決なので、ただちに千葉県条例解釈もそうなるとは限らない。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(北海道)

(卑わいな行為の禁止)

第2条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 衣服等の上から、又は直接身体に触れること。

(2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。

(3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。

(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。

2 何人も、公衆浴場公衆便所、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の人の姿態を、正当な理由がないのに、撮影してはならない。

http://www.reiki.pref.hokkaido.jp/d1w_savvy/HTML_TMP/svhtml-972975684.0.Mokuji.0.0.DATA.html

北海道は4号で包括指定としてるが、それでも北海道条例の方が、卑わいな行為の内容について千葉県よりもまだ具体性があるのである

また、判例の事件は、デパートジーンズはいた27歳女性の臀部を多数回にわたって撮影するというものであったが、これが卑わいな言動にあたるかについては裁判官でも意見が割れている。反対意見田原睦夫)は、衣服の上から臀部を視る行為や、衣服を上から臀部を撮影する行為それ自体を卑わいか疑問だとする。

 

本件の寝顔の無断撮影はどう判断すべきだろうか。

千葉県条例の不明確さは置いて、仮に千葉県迷惑防止条例3条2項を上記判例と同様に解釈すると、「卑わいな言動」とは「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」ということになる。

しかし、社会通念上、寝顔の撮影性的意味合いがあるのか?

上記判例の反対意見でも衣服はいた臀部に卑わい性があるのか疑問視してるが、今回は寝顔であり、より性的意味合いがなく、卑わい性をみたさないのではないかという疑問が生じる。男性も「かわいかったので」と答えているが…

無断で顔を撮影されるのが迷惑としても、性的道義観念に反するのかというと少し違う気もする。

一般的に性的対象となり得ない児童の寝顔の撮影などはどうするのだろう。

男性裁判で争う可能性は低いかと思うが、いろいろ気になるところだ。

2011-06-22

君が代起立職務命令、合憲判断 最高裁4例目

 広島県立高校の教諭らが、卒業式などで「君が代斉唱時に校長の命令に反して起立せずに戒告処分を受けたことを不服として県教委に処分の取り消しを求めた訴訟で、最高裁第三小法廷大谷剛彦裁判長)は21日、教諭らの上告を棄却する判決を言い渡した。教諭らの敗訴が確定した。

 判決は、起立させる校長職務命令について「思想・良心の自由」を保障した憲法19条に違反しないと判断した。同種の訴訟で「合憲」と判断した最高裁判決は4例目。

 原告教諭ら42人は、2001~03年度の入学式卒業式君が代斉唱時に校長の命令に反して起立しなかったことから、県教委から戒告処分を受けた。

 第三小法廷は、先行した3判決の内容を踏襲職務命令が個人の思想・良心の自由を「間接的に制約する面は否定しがたい」と認めつつ、教育上の行事にふさわしい秩序を確保する目的などを考慮すれば、「制約には必要性・合理性がある」と結論づけた。

 裁判官5人のうち、弁護士出身の田原睦夫裁判官は審理を高裁差し戻すべきだとする反対意見を述べた。「一部の教諭らについては起立だけでなく斉唱まで命令されたと解釈できる」と指摘。「斉唱の命令は、内心の核心的部分を侵害する可能性がある」との考えを示した。(山本亮介)

2011-06-17

で、三度目の合憲判決なわけだが

君が代訴訟:起立命令、三たび合憲 最高裁判決、2人目の反対意見

 入学式などで君が代斉唱時に起立しなかったことを理由に戒告処分を受けたのは「思想・良心の自由」を保障した憲法に反するとして、東京都内の公立中学校教諭ら3人が都を相手に処分取り消しなどを求めた訴訟上告審判決で、最高裁第3小法廷田原睦夫裁判長)は14日「起立斉唱命令は合憲」と判断し、教諭側の上告を棄却した。訴えを退けた2審判決(10年4月)が確定した。最高裁の三つの法廷で合憲判決が出そろったが、弁護士出身の田原裁判長が2人目となる反対意見を述べた。

 5月30日と6月6日の別の小法廷での判決と同様、今回の判決も、命令が思想・良心の自由への「間接的制約となる面は否定しがたい」としつつ、教諭の職務の公共性などから合憲とした。田原裁判長は「起立命令と斉唱命令は分けて考えるべきで、斉唱命令は内心の核心的部分を侵害する可能性がある」との反対意見を述べた。

 そのうえで、田原裁判長は不起立を理由とした処分について「命令内容が思想・良心の自由に直接関わる場合、処分はより慎重になされるべきだ」と指摘。多数意見岡部喜代子裁判官も「不利益処分は慎重にすべきだ」との補足意見を述べた。

 原告教諭ら(2人は退職)は入学式卒業式で起立斉唱しなかったとして、04年に戒告処分を受けた。うち一人の元教諭判決後「教育現場に処分を伴った一律強制がまかり通っている。行政をたしなめるべき司法が追認したことは残念」と話した。

 1審の東京地裁判決(09年)は同命令を合憲としたうえで「最も軽い戒告としたことに裁量権の逸脱はない」と請求を棄却東京高裁も支持した。【伊藤一郎】

"二人目の反対意見"なんて未練たらしく書いてるけど、これだけ立て続けにぶちかまされたらもう無理だろ。

この件の反対派はもういい加減従来路線の維持は諦めて、戦略の見直し仕切り直しを各自でやった方がいい。

2010-09-10

  • 1 -主文原判決及び第1審判決を破棄する。本件を大阪地方裁判所に差し戻す。理由弁護人中道武美の上告趣意のうち,第1点ないし第3点は,憲法37条違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。しかしながら,所論にかんがみ,職権をもって調査すると,原判決及び第1審判決は,刑訴法411条1号,3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。1本件公訴事実及び争点本件公訴事実の要旨は,被告人は,(1)平成14年4月14日午後3時30分ころから同日午後9時40分ころまでの間に,大阪市平野区所在のマンション(以下「本件マンション」という。)の306号室のB(以下「B」という。)方において,その妻C(当時28歳。以下「C」という。)に対し,殺意をもって,同所にあったナイロン製ひもでその頸部を絞め付けるなどし,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫により窒息死させて殺害し,(2)(1)記載の日時場所において,B及びC夫婦長男であるD(当時1歳。以下「D」という。)に対し,殺意をもって,同所浴室の浴槽内の水中にその身体を溺没させるなどし,よって,そのころ,同所において,同児を溺死させて殺害し,(3)本件マンション放火しようと考え,同日午後9時40分ころ,本件マンション306号室のB方6畳間- 2 -において,同所にあった新聞紙,衣類等にライターで火をつけ,その火を同室の壁面,天井等に燃え移らせ,よって,Bらが現に住居として使用する本件マンションのうち上記306号室B方の壁面,天井等を焼損し,もって,同マンションを焼損した,というものである。被告人は,Bが子供のころにその実母E(以下「E」という。)と婚姻し,養父としてBを育て,かつては,同居するEと共に,B家族との交流があったが,Bの借金問題,女性問題等をきっかけに,本件事件当時はB家族と必ずしも良好な関係にあったとはいえず,B家族平成14年2月末に本件マンションに転居した際には,その住所を知らされなかったものである。上記(1)ないし(3)の公訴事実となっている事件は,Bの留守中に発生したもので,火災の消火活動に際してCとDの遺体が発見されたことから発覚し,捜査が進められた結果,同年11月16日に被告人逮捕され,同年12月7日に上記(1),(2)の各事実が,同月29日に上記(3)の事実が起訴された。上記公訴事実につき,検察官は,その指摘する多くの間接事実を総合すれば被告人の犯人性は優に認定できる旨主張し,被告人は,本件事件当日まで,事件現場である本件マンションの場所を知らず,事件当日及びそれ以前を含めて,その敷地内にも立ち入ったことはない,被告人は犯人ではなく無罪である旨主張した。争点は,被告人の犯人性である。2第1審判決第1審判決は,被告人の犯人性を推認させる幾つかの間接事実が証拠上認定できるとした上,これらの各事実が,相互に関連し合ってその信用性を補強し合い,推認力を高めているとして,結局,被告人が本件犯行を犯したことについて合理的な- 3 -疑いをいれない程度に証明がなされているとし,ほぼ上記公訴事実と同じ事実を認定し,被告人無期懲役に処した(検察官求刑死刑)。この間接事実からの推認の過程は,以下のようなものである。(1)被告人は,本件事件当日である平成14年4月14日,仕事休みであり,午後2時過ぎころに自宅を出て,自動車に乗って大阪市平野区方面へ向かい,同日午後10時ころまで同区内ないしその周辺で行動していたことが認められるが,さらに,以下のアないしオを併せ考えると,被告人が,同日に現場である本件マンションに赴いたことを認定することができる。ア本件マンション道路側にある西側階段の1階から2階に至る踊り場の灰皿(以下「本件灰皿」という。)内から,本件事件の翌日にたばこの吸い殻72本が採取されたが,その中に被告人が好んで吸っていた銘柄(ラークスーパーライト)の吸い殻が1本(以下「本件吸い殻」という。)あり,これに付着していた唾液中の細胞DNA型が,被告人の血液のDNA型と一致していること,このDNA型一致の出現頻度は1000万人に2人という極めて低いものであること,本件事件の火災発生後,程なく警察官による現場保存が行われたことなどから,被告人が,本件事件当日あるいはそれまでの間に事件現場である本件マンションに立ち入り,本件灰皿に本件吸い殻を投棄したことが動かし難い事実として認められる。イ本件事件当日午後3時40分ころから午後8時ころまでの間,被告人が当時使用していた自動車と同種・同色の自動車が,本件マンションから北方約100mの地点に駐車されていたと認められる。ウ被告人自身が,捜査段階において,本件事件当日に自己の運転する自動車を同地点に駐車したことを認めていた。- 4 -エ本件事件当日午後3時過ぎないし午後3時半ころまでの間に,本件マンションから北北東約80mに位置するバッティングセンターにおいて,被告人によく似た人物が目撃されたと認められる。オ被告人自身,本件事件当日はBないしB宅を探して平野区内ないしその周辺に自動車で赴いたことを自認しており,これは信用できる。(2)他方,動機面についても,以下のアないしウの点などから,被告人は,本件事件当時,背信的な行為をとり続けるBに対して,怒りを募らせる一方,後記のような自分からの誘いを拒絶した上で,Bと行動を共にし,被告人の立場から見ればBに追随するかのような態度を見せていたCに対しても,同様に憤りの気持ちを抱くようになったことが推認できる。そうすると,Cとの間のやり取りや同女のささいな言動など,何らかの事情をきっかけとして,Cに対して怒りを爆発させてもおかしくない状況があったということができる。そのような事情を有していた被告人が,本件事件当日,犯行現場に赴いたことは,被告人の犯人性を強く推認させるものである。ア平成13年10月1日から同月24日まで,C及びDは,被告人宅で同居生活を送ったが,そのころ,被告人は,Cに対し,恋慕の情を抱いており,性交渉を迫る,抱き付く,キスをするなどの行為に及んだことがあった。イしかし,Cは,被告人からの誘いを拒絶し,被告人宅から被告人に告げることなくBの下へ戻った上,Bと行動を共にするようになり,被告人との接触を避けてきた。ウ被告人は,Bの養父ないし保証人として,Bの借金への対応に追われていたが,Bは,被告人に協力したり,感謝したりすることをせず,無責任かつ不誠実な- 5 -態度をとり続けていた。(3)被告人は,本件事件当日の夕方,朝から仕事に出ていたEを迎えに行く約束をしていたにもかかわらず,特段の事情がないのにその約束をたがえ,C及びDが死亡した可能性が高い時刻ころに自らの携帯電話の電源を切っており,Eに迎えに行けないことをメールで伝えた後,出火時刻の約20分後に至るまでの間同女に連絡をとっていないなど,著しく不自然な点があるが,これらについては,被告人が犯人であると考えれば,合理的な説明が可能であり,得心し得るものである。(4)このほか,被告人の本件事件当日の自身の行動に関する供述は,あいまいで漠然としたものであり,不自然な点が散見される上,不合理な変遷もみられ,全体として信用性が乏しいものであって,被告人は,特段の事情がないのに,同日の行動について合理的説明ができていない点がある。また,Cは,生前,在宅時も施錠し,限られた人間が訪れた際にしかドアを開けようとしなかったこと,本件の犯人が2歳にもならないDを殺害しているのは口封じの可能性が高いこと,犯人が現場放火して徹底的な罪証隠滅工作をしていることなどから,本件犯行は被害者と近しい関係にある者が敢行した可能性が認められる。これらの各事実も,被告人の犯人性を推認させるものである。(5)以上の事実を全体として考察すれば,被告人が本件犯行を犯したことについて合理的な疑いをいれない程度に証明がなされているというべきである。(6)なお,被告人は,本件事件当日に本件マンション敷地内に入って階段を上ったことがある旨認める供述をした被告人平成14年8月17日付け司法警察員に対する供述調書(乙14)について,警察官から激しい暴行を受けたために内容もよく分からないまま署名したと主張するが,同供述調書の供述内容には任意性及- 6 -び信用性が認められ,これによっても,被告人の犯人性が肯定されるという上記判断が更に補強されることになる。3原判決この第1審判決に対し,被告人は,訴訟手続の法令違反,事実誤認を理由に控訴し,検察官は,量刑不当を理由に控訴した。原判決は,被告人控訴趣意のうち,前記司法警察員に対する供述調書(乙14)には任意性がなく,これを採用した第1審の措置が刑訴法322条1項に反しているという訴訟手続の法令違反の主張について,そのような訴訟手続の法令違反があることは認めつつ,事実誤認の主張については,第1審判決の判断がおおむね正当であり,同供述調書を排除しても,被告人が各犯行の犯人であると認めた第1審判決が異なったものになった蓋然性はないのであるから,この訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことの明らかなものとはいえないとした。その上で,検察官の主張する量刑不当の控訴趣意に理由があるとして,第1審判決を破棄し,第1審判決が認定した罪となるべき事実を前提に,被告人死刑に処した。4当裁判所の判断しかしながら,第1審の事実認定に関する判断及びその事実認定を維持した原審の判断は,いずれも是認することができない。すなわち,刑事裁判における有罪の認定に当たっては,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ,情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても,直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(最高裁平成19年(あ)第398号同年10月16日第一小法廷決定・刑集61巻7号677頁参照),直接証拠がないのであるから,情況証拠によって認められる間接事実中に,- 7 -被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するものというべきである。ところが,本件において認定された間接事実は,以下のとおり,この点を満たすものとは認められず,第1審及び原審において十分な審理が尽くされたとはいい難い。(1)第1審判決による間接事実からの推認は,被告人が,本件事件当日に本件マンションに赴いたという事実を最も大きな根拠とするものである。そして,その事実が認定できるとする理由の中心は,本件灰皿内に遺留されていたたばこの吸い殻に付着した唾液中の細胞DNA型が被告人の血液のそれと一致したという証拠上も是認できる事実からの推認である。このDNA型の一致から,被告人が本件事件当日に本件マンションを訪れたと推認する点について,被告人は,第1審から,自分がC夫婦に対し,自らが使用していた携帯灰皿を渡したことがあり,Cがその携帯灰皿の中に入っていた本件吸い殻を本件灰皿内に捨てた可能性がある旨の反論をしており,控訴趣意においても同様の主張がされていた。原判決は,B方から発見された黒色の金属製の携帯灰皿の中からEが吸ったとみられるショートホープライトの吸い殻が発見されていること,それはCなどが被告人方からその携帯灰皿を持ち出したためと認められること,上記金属製の携帯灰皿のほかにもビニール製の携帯灰皿をCなどが同様に持ち出すなどした可能性があること,本件吸い殻は茶色く変色して汚れていることなどといった,上記被告人の主張を裏付けるような事実関係も認められるとしながら,上記金属携帯灰皿を経由して捨てられた可能性については,Eの吸い殻を残して被告人の吸い殻だけが捨て- 8 -られることは考えられないからその可能性はないとした。また,ビニール携帯灰皿を経由して捨てられた可能性については,ビニール携帯灰皿に入れられた吸い殻は通常押しつぶされた上で灰がまんべんなく付着して汚れるのであるが,本件吸い殻は押しつぶされた形跡もなければ灰がまんべんなく付着しているわけでもないのであり,むしろ,その形状に照らせば,もみ消さないで火のついたまま灰皿などに捨てられてフィルターの部分で自然に消火したものと認められること,茶色く変色している点は,フィルターに唾液が付着して濡れた状態で灰皿の中に落ち込んだ吸い殻であれば,翌日採取されてもこのような状態となるのは自然というべきであることから,その可能性もないとした。しかし,ビニール携帯灰皿に入れられた吸い殻が,常に原判決の説示するような形状になるといえるのか疑問がある上,そもそも本件吸い殻が経由する可能性があった携帯灰皿がビニール製のものであったと限定できる証拠状況でもない(関係証拠によれば,B方からは,箱形で白と青のツートーンの携帯灰皿も発見されており,これはE又は被告人のものであって,Cが持ち帰ったものと認められるところ,所論は,この携帯灰皿から本件吸い殻が捨てられた可能性があると主張している。)。また,変色の点は,本件事件から1か月半余が経過してなされた唾液鑑定の際の写真によれば,本件吸い殻のフィルター部全体が変色しているのであり,これが唾液によるものと考えるのは極めて不自然といわざるを得ない。本件吸い殻は,前記のとおり本件事件の翌日に採取されたものであり,当時撮影された写真において既に茶色っぽく変色していることがうかがわれ,水に濡れるなどの状況がなければ短期間でこのような変色は生じないと考えられるところ,本件灰皿内から本件吸い殻を採取した警察官Fは,本件灰皿内が濡れていたかどうかについて記憶は- 9 -ないが,写真を見る限り湿っているようには見えない旨証言しているから,この変色は,本件吸い殻が捨てられた時期が本件事件当日よりもかなり以前のことであった可能性を示すものとさえいえるところである。この問題点について,原判決の上記説明は採用できず,その他,本件吸い殻の変色を合理的に説明できる根拠は,記録上見当たらない。したがって,上記のような理由で本件吸い殻が携帯灰皿を経由して捨てられたものであるとの可能性を否定した原審の判断は,不合理であるといわざるを得ない(なお,第1審判決が上記可能性を排斥する理由は,原判決も説示するように,やはり採用できないものである。)。そうすると,前記2(1)イ以下の事実の評価いかんにかかわらず,被告人が本件事件当日に本件マンションに赴いたという事実は,これを認定することができない。(2)ところで,本件吸い殻が捨てられていた本件灰皿には前記のとおり多数の吸い殻が存在し,その中にはCが吸っていたたばこと同一の銘柄(マルボロライト金色文字〕)のもの4個も存在した。これらの吸い殻に付着する唾液等からCのDNA型に一致するものが検出されれば,Cが携帯灰皿の中身を本件灰皿内に捨てたことがあった可能性が極めて高くなる。しかし,この点について鑑定等を行ったような証拠は存在しない。また,本件灰皿内での本件吸い殻の位置等の状況も重要であるところ,吸い殻を採取した前記の警察官にもその記憶はないなど,その証拠は十分ではない。検証の際に本件灰皿を撮影した数枚の写真のうち,内容が見えるのは,上ぶたを取り外したところを上から撮った写真1枚のみであるが,これによって本件吸い殻は確認できないし,内容物をすべて取り出して並べた写真も,本件吸い殻であることの確認ができるかどうかという程度の小さなものである。さら- 10 -に,本件吸い殻の変色は上記のとおり大きな問題であり,これに関しては,被告人が本件事件当日に本件吸い殻を捨てたとすれば,そのときから採取までの間に水に濡れる可能性があったかどうかの検討が必要であるところ,これに関してはそもそも捜査自体が十分になされていないことがうかがわれる。前記のとおり,本件吸い殻が被告人によって本件事件当日に捨てられたものであるかどうかは,被告人の犯人性が推認できるかどうかについての最も重要な事実であり,DNA型の一致からの推認について,前記被告人の主張のように具体的に疑問が提起されているのに,第1審及び原審において,審理が尽くされているとはいい難いところである。(3)その上,仮に,被告人が本件事件当日に本件マンションに赴いた事実が認められたとしても,認定されている他の間接事実を加えることによって,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が存在するとまでいえるかどうかにも疑問がある。すなわち,第1審判決は,被告人が犯人であることを推認させる間接事実として,上記の吸い殻に関する事実のほか,前記2(2)ないし(4)の事実を掲げているが,例えば,Cを殺害する動機については,Cに対して怒りを爆発させてもおかしくない状況があったというにすぎないものであり,これは殺人の犯行動機として積極的に用いることのできるようなものではない。また,被告人が本件事件当日携帯電話の電源を切っていたことも,他方で本件殺害行為が突発的な犯行であるとされていることに照らせば,それがなぜ被告人の犯行を推認することのできる事情となるのか十分納得できる説明がされているとはいい難い。その他の点を含め,第1審判決が掲げる間接事実のみで被告人を有罪と認定することは,著しく困難であるといわざるを得ない。- 11 -そもそも,このような第1審判決及び原判決がなされたのは,第1審が限られた間接事実のみによって被告人の有罪を認定することが可能と判断し,原審もこれを是認したことによると考えられるのであり,前記の「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係」が存在するか否かという観点からの審理が尽くされたとはいい難い。本件事案の重大性からすれば,そのような観点に立った上で,第1審が有罪認定に用いなかったものを含め,他の間接事実についても更に検察官の立証を許し,これらを総合的に検討することが必要である。5結論以上のとおり,本件灰皿内に存在した本件吸い殻が携帯灰皿を経由してCによって捨てられたものであるとの可能性を否定して,被告人が本件事件当日に本件吸い殻を本件灰皿に捨てたとの事実を認定した上で,これを被告人の犯人性推認の中心的事実とし,他の間接事実も加えれば被告人が本件犯行の犯人であることが認定できるとした第1審判決及び同判決に審理不尽も事実誤認もないとしてこれを是認した原判決は,本件吸い殻に関して存在する疑問点を解明せず,かつ,間接事実に関して十分な審理を尽くさずに判断したものといわざるを得ず,その結果事実を誤認した疑いがあり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,第1審判決及び原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よって,弁護人中道武美の上告趣意第4点について判断するまでもなく,刑訴法411条1号,3号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法413条本文に従い,更に審理を尽くさせるため,本件を第1審である大阪地方裁判所に差し戻すこととし,裁判官堀籠幸男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文の- 12 -とおり判決する。なお,裁判官藤田宙靖,同田原睦夫,同近藤崇晴の各補足意見,裁判官那須弘平の意見がある。裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。私は,多数意見に賛成するものであるが,本件において被告人を犯人であるとする第一審判決及びこれを支持する原判決の事実認定の方法には,刑事司法の基本を成すとされる推定無罪の原則に照らし重大な疑念を払拭し得ないことについて,以下補足して説明することとしたい。1第一審判決及び原判決が,被告人を本件の犯人であると認定した根拠は,基本的には,以下のような点である。(1)被告人が当日現場マンションに立ち入ったことを証する幾つかの間接証拠が存在すること。(2)被告人被害者らを殺害する動機があったとまでは認定できないが,被害者Cとのやり取りやそのささいな言動をきっかけとして,同人に対し怒りを爆発させてもおかしくはない状況があったこと。(3)第三者の犯行を疑わせる状況は見当たらないこと。(4)被害者らの推定死亡時刻頃における被告人アリバイはなく,また,この点についての被告人供述あいまいであり,不自然な変転等が見られること。(5)これらの事実は,それ自体が直接に被告人が犯人であることを証するものではないが,これらを総合して評価すると,相互に関連し合ってその信用性を補強し合い,推認力を高めていること。しかし,これらの根拠は,以下に見るとおり,いずれも,被告人が犯人であることが合理的な疑いを容れることなく立証されたというには不十分であるというほか- 13 -ないように思われる。2(1)被告人が当日現場マンションに赴いた事実を証するとされる間接事実は,仮にこれらの事実の存在が証明されたとしても,そのいずれもが,公訴事実自体とはかなり距離のある事実であり,いわば間接事実のまた間接事実といった性質のものであるに過ぎない。例えばまず,被告人が当時使用していた車(白色のホンダストリーム)と同種・同色の車が事件発生時刻を挟んだ数時間現場の近くの商店前の路上に長時間にわたって駐車されていたという事実は,必ずしも,被告人が使用していた車そのものが駐車されていたという事実を証するものではない。また,近所のバッティングセンターにおいて被告人ないし被告人とよく似た男が目撃されたという事実についても,そのこと自体は,あくまでも,被告人現場マンションの近くにいたという事実を証するものであるに過ぎない(被告人は,具体的な場所については特定できないものの,当日現場マンションの近くに赴いたこと自体は,必ずしも否定してはいないのである)。このような状況にある以上,上記二つの事実は,当日被告人が犯行現場に赴いたということをより積極的に推測させる証拠がある場合にそれを補強する機能しか持ち得ない筈のものと思われるが,そのような積極的証拠としての役割を持たされているのは,唯一,現場マンションの犯行現場に通じる階段の踊り場の灰皿内から発見されたたばこの吸い殻から,鑑定により被告人のものと一致するDNA型が発見されたという事実である。しかし,多数意見も詳細に指摘するとおり,問題のたばこの吸い殻が,発見された際の状況等に照らして,間違いなく被告人が当日当該灰皿の中に投棄したものと推認できるか否か(被告人の吸い殻が入った携帯灰皿をCが過日同マンションに持ち帰り,本件当日以前にCが当該灰皿に投棄した可能性が- 14 -あるという論旨に対し,そのようなことはおよそあり得ないとまで言えるか)については,少なくともそのように断言することはできないように思われる。以上要するに,上記の各間接事実の存在によって,被告人事件当日現場マンションを訪れたという事実については,その可能性が相当の蓋然性を以て認められること自体は否定できないが,その事実自体を証拠上否定できないとまでいうことはできない。更に,仮にこの事実の存在が認定されたとしても,公訴事実との関係では,(被告人がこの点に関し虚偽の供述をしていることが判明したという事実をも含め)それ自体が一つの間接事実に過ぎないのであって,被告人の有罪認定の根拠としては,未だ強力な証明力を有する事実とまでいうことはできない。(2)犯行の動機につき,第一審判決及び原判決においては,被告人にCを殺害する動機があったとまでいうことはできないにしても,同女との間のやり取りや同女のささいな言動など,何らかの事情をきっかけとして,Cに対して怒りを爆発させてもおかしくない状況があったという事実が,単独ではその推認力には限界はあるものの,被告人の犯人性に関する積極方向の間接事実であると指摘されている。しかし,このように一般的抽象的な状況のみで,当日被告人とCとの間にどのような具体的事実があったのかについておよそ認定されることなく,これを被告人有罪の積極的根拠として用いることについては,疑問を禁じ得ない。すなわち,動機についても,原判決認定に係る事実のみでは,せいぜい,本件犯行の一般的な可能性があることを否定できない(動機があり得ないとは言えない),という程度の証明力しか無いように思われるのである。また,仮にCに対する犯行の動機を,上記のようにその場における突発的な激情ないし憤激(の可能性)に見出すとしても,そこから更に進んで,証拠隠滅目的のために被告人が日頃可愛がっていた(わずか- 15 -1歳10か月に過ぎない)被害者Dの殺害にまで至ったという説明についても,十分な説得力があるものとは言えない。(3)第三者の犯行可能性について第一審判決がこれを否定する根拠は,いずれも,例えば宅配便郵便配達を装った通り魔殺人の可能性を排除するものとして,必ずしも説得的であるとは言えない。なお,本件における捜査のあり方に関しては,本件マンションに立ち入ったことを自供した被告人平成14年8月17日付の供述調書(乙14号証)につき,原判決もまたその任意性を否定せざるを得なかったことに示唆されているとおり,その適法性につき疑念を抱かせる点が無いとは言えないのであって,捜査陣が,捜査の早い段階から被告人が犯人であると決め付けて,その裏付けとなりそうな事実のみを集め,それ以外の事実については関心を持たなかった(切り捨てた)のではないかという上告論旨の指摘も,全く無視することはできないというべきである。(4)被告人の当日の行動についての説明には,極めてあいまいなものがあり,とりわけ,当日立ち寄った場所に関し,一つとして確定的なことを述べていないという点は,大いに不審を抱かせる事実であると言わざるを得ない。しかし,であるからといって,そのこと自体が被告人を犯人と推認させる決定的な事実となるわけではなく,やはり可能性を否定し得ないというだけのことでしかない。また,原判決が重視する,被告人が犯行時刻頃に携帯電話の電源を切っていたという点については,もしこの事実が被告人の本件犯行を裏付ける事実というのであれば,被告人の犯行は計画的なものであり,それが故にこそ前以て電源を切っていた,ということになる筈であると思われるが,本件の犯行が(未必の故意をも含め)予め計画されたものであるとは全く認定されていないのであって,むしろ,上記のように,現- 16 -場におけるCとの接触の中での突発的・偶発的な殺意によるものであると推測されているのである。果たして,そのような犯行状況の下で携帯電話の電源を切るというような冷静な行動に出ることが,容易に想定され得るであろうか。なお,仮にこの事実が,必ずしも被告人の本件犯行そのものではなく,被告人被害者宅を訪れること自体を秘する目的であったことを裏付けるものとして引き合いに出されているのであるとしても,バッテリーの消費をセーブするために携帯電話の電源を一時切るという行為自体は必ずしも奇異な行動とは言えない上,そもそも当日被告人被害者宅を探すために行動していたこと自体は,当初から,特に秘されていたわけではないのであって,それにも拘らず急遽携帯電話の電源を切ることとなったのは何故かについては,第一審及び原審において,なんら明確な認定がされておらず,全ては,被告人が犯人であることを前提とした上での推測に基づくものでしかない。のみならず,仮にそうした事実が認められるとしても,被告人被害者宅を訪れたという事実自体,本件犯行との関係では一つの間接事実としての位置付けを与えられるものでしかないことは,先に見たとおりである。(5)第一審判決及び原判決は,上記の各間接事実について,その一つ一つについては,それだけで被告人有罪の根拠とすることはできないものの,これらを「総合評価」すれば合理的疑いを容れる余地なく被告人有罪が立証されているとする。私もまた,このような推論が一応可能であること自体を否定するものではない。ただ,本件における各間接事実は,その一つ一つを取って見る限り,上記に見たように,さほど強力な根拠として評価し得るものではなく,たばこの吸い殻のDNA型を除いては,むしろ有罪の根拠としては薄弱なものであるとすら言えるのではないかと思われる。本件において認定されている各事実は,上記に見たように,いずれ- 17 -も,被告人が犯人である可能性があることを示すものであって,仮に被告人が犯人であると想定すれば,その多くが矛盾無く説明されるという関係にあることは否定できない。しかし一般に,一定の原因事実を想定すれば様々の事実が矛盾無く説明できるという理由のみによりその原因事実が存在したと断定することが,極めて危険であるということは,改めて指摘するまでもないところであって,そこで得られるのは,本来,その原因事実の存在が仮説として成立し得るというだけのことに過
 
ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん