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2016-10-25

とあるアル中回復記録

東京在住の30代男だがアルコール依存治療開始から六ヶ月が経過し、一定回復をしたのでその過程を記録してみたい。

数字で示すと治療開始時から約六ヶ月で

γ-GTP 589→69 AST 84→31 ALT 106→68 TG 1015→178

まで回復した。

数字で言われても大多数の人はさっぱりわからないだろうから単純化すると入院レベル人間がとりあえず正常な体になったと思ってもらえればいい。

さて多くの文章がそうであるように、大抵の人は最後まで読まないだろうから最初自分なりのこの文章結論を書いておくと

アルコール依存から抜け出したいのなら自分の抱えた問題アルコールに限らない)を率直に話す事ができる相性が良く優秀な精神科医を見つけ、よく話し合いながら治療を進めるといい。ただそれがあなた人生を良くするかはわからない」という身も蓋もないものになる。できることなら「まだアルコールで消耗してるの?」「アル中精神で克服できる」とか頭の沸いた自己啓発本でも出して一儲けしたい所ではあるが、残念ながら現実というやつは概ね散文的で面白みがない。

確かに肉体の調子は非常にいい。自分という存在からここまで充実感を感じ取れる日が来るとは思わなかった。

だが同時に精神面では未だに様々な問題が噴出している。

アルコール依存を抜けだした僕自身が未だに「抜けだしたのは良かった事だろうか?」と自問自答を続けている。だから他者断酒を勧めたりはしない。この文はあくまでひとりのとあるアル中回復記録として、参考程度に読んで頂ければ幸いです。

自分アル中定義

まずこの文章を書くにあたって自分がかかっていたアル中定義をしておきたい。アル中貧乏旅行なんかと一緒でγ-GTPの高さでマウンティングする人もいるし、wikiなんかでも色々と書かれているが、自分場合は「アルコールによってQOLが下がっている」というシンプルものにする。世間アル中イメージ吾妻ひでおマンガのように連続飲酒をし、手が震え、幻覚をみたり暴れたりしている人のイメージが強い。

しか自分はそれとは全く異なるタイプだったので自身アル中であるという自覚すらなかった。仕事普通に行き、帰宅するとビールの500ml缶を一日6~8缶淡々と飲み、翌日二日酔い仕事へ行く、という事を繰り返していて入院レベルまでいった(似たような壊れ方をする小説人物からとってユージーン型と呼んでいる)。世の中には様々な不幸な家庭があるようにアル中にも様々なタイプがある。

医師選択について

20代の半ばから不眠に伴う飲酒量の増加により、何件か精神科に通っていたが、自身の抱えた問題を率直に打ち明けられる医師に中々巡りあうことは出来なかった。

マッチョイストだのミソジニストだの差別主義者の豚野郎と言われればそのとおりなのだが、性格的にどうしても同年代医師や、女性医師に悩みを打ち明けられなかった。基本的精神科医患者情報当人発言から得る部分が多いので、深刻な問題を抱えていても話せないとどんな名医でも対処が難しいのではないだろうか。

今回僕は精神科に通い始めてから八人目の精神科医先生であたりを引いたわけだが、もし相性が悪いと思ったら拘泥せず別の医師を頼った方がいいのではないかと思う。

この先生は四十代半ばの男性学校教師を経て精神科医になった異色の経歴の持ち主で、僕よりも遥かに精神的な地獄を抱えているが、持ち前の頭の良さでそんな自分にすら醒めているような超然とした空気をもった人で非常に問題を話しやすくてありがたかった。

■基本戦

とりあえず入院拒否し、通院で治療選択。基本戦略は抗酒剤シアナミドの服用により飲酒可能自体排除アルコールに対する身体的な欲求は断酒補助剤レグテクトで抑える、いままでアルコールに頼って来た睡眠睡眠導入剤で、アルコールごまかして来た精神面の色々は精神科でぶちまけつつストレスを減らし、抗不安薬で抑えるというスタンスを取った。そしてこれらでどうしようもなくなった時は先生から勧められたレボトミンを飲んで長時間寝倒す「寝逃げ」を行っていた。これも自分の置かれた状況から選択したものなので、人によってはちゃっちゃと入院して治した方がいい場合もあると思う。

■登場薬品について

これも精神科医様相性によって全く評価が変わるので自分に合っていたものを挙げるが、これらの評価は全て自分体感だし、当然の事ながらそれが他の人の適解であるとは言えない。シアナミドにしてもアレルギーによって服用できない人はいるらしいし。とりあえず相性が悪いと思ったら我慢せず、状況を報告できるような関係を築けるような人を担当医として選ぶといいと思う。

本編の主役にして宿敵 

アルコール

一応は由緒正しい歴史を持つ薬でもある。精神、肉体両面に凶悪依存症を持ちながらもコンビニ行けば変えてしまう恐ろしいドラッグ歴史上の薬物による死の統計をとれたらヘロインコカインなんぞ足元にも及ばないぶっちぎりのトップになるだろうが、同時に文化的な面やコントロールできる人にとっては素晴らしく、評価が難しい方。政治家でいうならロバート・ムガベとかだろうか。自分は後述のゆれ戻しの時にアルコール自分の肉体と精神を徐々に蝕む代償としてどれだけ精神深くの暗黒から目をそらさせてくれたかに気づかされたので愛憎半ばしている。

抗酒剤 

シアナミド

簡単に言ってしまえば人を強制的に超下戸にする無味無臭の液体の薬。持続時間は人によって異なるが朝夕食時の一日二回の服用が基本。アルコールを飲むという選択肢自体をなくしてしまうので自分のような意思の弱い人間には非常にありがたい薬だった。僕の場合仕事の後の飲酒欲求が強いので二度目の服用はまだ気力のある15時にしていた。懲罰効果によって飲酒を止める薬である以上、罰がどの程度の効果かわかりたかったので一度7時に服用した後、15時にビール1Lを入れてみた。効果は覿面で、悪寒、動悸が早くなる、湿疹、なにより全身の細胞が一斉に反逆を起こしたような気持ちの悪さで立ち上がる事すらできなくなり嘔吐をぶちまけた。寄生獣後藤最期の気分や喧嘩稼業で梶原さんに屍を入れられた工藤の気分を味わいたい人はやってみるといいかも。死んでも知らないけど。

断酒補助剤 

レグテクト

脳に作用し、アルコール依存で高まっている神経活動抑制することで「飲みたい」という飲酒欲求をおさえるお薬との事。初期は有り難みを感じなかったが、二ヶ月目くらいから地味に効果自覚。なんだかんだで大変役に立ってくれていた。地味だけど。

睡眠導入剤 

サイレース

影の主役。元々不眠からアルコール依存になった人間なので飲めば確実に眠れる安心感は何にも変え難かった。先述したように薬は人それぞれ相性があるが、以前の別の精神科で処方されていたマイスリーよりもこちらの方が朝、遥かに快適に目覚められた。

レボトミン

本来向精神薬だが、睡眠導入剤の効き目を強くする効能もある。自分は、先述した「寝逃げ」用にサイレースと一緒に服用していた。その効果は絶大で昼に飲んでも落ちるように眠り、翌朝まで目を覚まさなかった。ただし朝のダルさと眠気が非常につらく、飲酒欲求が高まりすぎた時や、ネガティブ精神状態に呑まれそうなとき、そして翌日が休日である時意外はなるべく服用しないようにした。

抗不安薬系統

ホリゾン 

一番軽度の抗不安薬事務作業などに与える影響はほぼなし。自分ボクシングのジャブのように「とりあえずホリゾン」な感じの基本として使っていた。メタルギアソリットで狙撃時の手の震えを抑える為に出てきたアイテムのジアザパムでもある。

エビリファイ

やや強めのお薬。事務作業においては能率が約20%低下する印象。

ワイパックス

かなり強めのお薬。事務作業の能率に関しては50%以上低下する印象なので特に精神的につらい時、仕事終了後に服用していた。

治療記録

第一期(治療開始から一ヶ月目)

最初断酒補助剤レグテクトによる治療を試みるも、精神依存が酷かった為にあまり効果が感じられず失敗。一週間目でシアナミドを処方してもらう。使用開始から三日間は常に頭の中身を酒が占めているような状態だったが、「飲む」という選択肢自体がなくなっている為に飲まずにいられた。ちなみに肉体的なアルコールへの依存断酒から三日目で、精神的な依存は約三週間である程度消えた。この時期は全ての気力を「酒を飲まない」につぎ込んでいたので基本食事外食、もし家で食事する時は洗う手間を省く為に使い捨ての紙皿を使うなどして乗り切った。バランスのとれた食生活なんてする気力も残っていなかったがとりあえず楽に摂取できるリンゴキウイなんかは食べるようにしていた、

・第二期(一ヶ月目~二ヶ月目)

断酒継続により心身ともに調子が良くなり、ハイになる。この時期は今思い返すと穴に入りたい気持ちになるが、友人に酒のない生活の素晴らしさをドヤ顔で語りウザがられていた。定期的な飲酒欲求はあったものレグテクトと気力で無事やり過ごすことができた。代わりといってはなんだが、甘いものに対する渇望が極めて強くなり、体重はそれなりに増加した。

・第三期(二ヶ月目~三ヶ月目)

NHKの集金のように頼まれもしないのにある日唐突に今までとは比較にならない負の感情が襲ってきた。ハイになっていた揺れ戻しと精神にかかっていた霧のようなものが晴れた事で自分アル中になった根本の原因である家族への憎悪」がどれだけ強烈だったを自覚する。全て投げ出してアル中に戻ってしまいたい誘惑に何度も飲み込まれかけた。もし家族ブチ殺しても罪にならない世界だったら本当に殺しかねなかったと思う。この時期はいままで週1ペースだった通院が最大で週3になり、薬の量も増え、診療時間中ずっと先生に対して家族への憎しみをぶちまけ続けていた。王様の耳はロバの耳ではないが、この時期の先生サポートがなければアル中に戻るか、ムショ行きにでもなっていたかもしれない。アル中から回復は三ヶ月がひとつの山らしいが、とにかくこの時期は本当につらかった。

・第四期(三ヶ月目~四ヶ月目)

揺れ戻しが終わったのか精神面の憎悪は小康状態に落ち着きある程度楽になるが今度は代わりに虚無感が強くなり、「なんで自分はさっさと対策をとらずこんなに人生無駄使いをしていたのか」といった大量の「たられば」 に捕らわれることが多くなり、第三期ほどではないが飲酒欲求が高まるときは多かった。通院はほぼ週一に戻ったが、今度は先生に対して「たられば」の話ばかりしていた記憶がある。ただ小旅行をする気力くらいは戻ったので休日は鎌倉に行って観光するでもなくひたすら海を眺めていたりした。

・第五期(四ヶ月目~六ヶ月目)

「たられば」状態が少し落ち着いてきて気力もある程度戻った事もあり、これまでは考えもしなかったペットを飼うという選択肢を思いつく。僕個人に関してはこの選択はとても正解で、無聊が大分慰められ、大いに助けてもらった。自分のような一人で夜を過ごす時間をもてあますタイプには犬や猫、小動物でも爬虫類でもなんでもいいが、余計な事を考える時間を減らせる存在大事なのかも知れない。そして大分生活も落ち着くようになった。家族への憎悪も「できるなら殺してやりたい」から夜寝る前に朝起きたら携帯警察からあなたのご家族がみんな死にました」という連絡が入ってくれますようにと願う程度には整理された。体調に関しては非常に良く、生活も充実している。時折強烈な負の感情が出てきているがなんとかやり過ごしつつ今にいたる。

■まとめ

アル中回復して以来、めんどうくせえ事に友人知人に「アル中の事ならあいつに聞くといいよ」な感じで広められ、たいした面識もない人から相談を受けるようになったが、正直言ってこちらに言える事なんぞ冒頭に書いた「アルコール依存から抜け出したいのなら自分の抱えた問題アルコールに限らない)を率直に話す事ができる相性が良く優秀な精神科医を見つけ、よく話し合いながら治療を進めるといい。ただそれがあなた人生を良くするかはわからない」 という結論くらいしかない。世の中には「アルコールに逃げるのなんで心が弱い証拠、他人のせいにせず自分人生を見つめなおし、責任は自分自身で追うべき」なこの糞馬鹿はよほどおめでたい人生を生きてきたんだろうなと思わせてくれる発言をかましてくれる人もいるが、もし自分人生に率直に向き合ったら他殺や自殺に行く人間なんざざらにいると思し、その人の人生に責任を負うことも自分にはできないので積極的お勧めはしない。自分に関しても肉体は問題なく健康になったが、精神面に関しては断酒前には起きることがなかった唐突に強烈な憎悪がとまらなくなるという事態が未だにある。ただ、自分家族に全く愛情を感じた事がなく、憎悪しか持っていなかったという事に気づけたのは自尊感情回復に非常に役にたってくれたし、これから自分人生にとって何よりの収穫であったとは思う。とりあえず、アル中から回復したいと考える人々がいい医師出会え、回復して楽しく人生を送れるようになってくれるよう元アル中の一人として願っています。長文にお付き合いありがとうございました。

■おまけ

読んだ本

・「禁酒メソッド

禁煙メソッド」でも有名なアレン・カーによる著作。もの凄く端折ると「酒は凶悪ドラッグなのだから自己管理するなんて無理。味が美味しいと思うのも広告会社宣伝やら依存症状によりそう思っているだけ。断酒の禁断症状なんて少し耐えれば治ります。さっさとやめましょう」というある種の極論。周りにもこれを読んですっぱり酒を断ち切った人がいたが、その人は肉体的な依存はあっても精神面には深刻なトラブルを抱えていない、というかむしろ鋼鉄メンタルを持った人だったので、そういう人には役に立つ本かもしれない。ただ精神面に問題がある自分のような人間にとって、医師に頼らずこれ読んで一人の力でで禁酒しようとすると、第三期の時のような強烈な揺れ戻しの時にいささかならずやばいことになるのではないかと思う。

2008-07-04

http://anond.hatelabo.jp/20080704043104

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A0%E3%82%AC%E3%83%99

ロバート・ムガベ、84歳じゃないか。

神様が裁かなくても、そろそろ誰かの支援なしじゃ生活もままならんだろ。

主治医が手を抜けばいいだけなのにそうされていないってことは、彼に死んでもらっちゃ困る人間も少なからずいそうだな。

 
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