2019-09-11

重要追記あり】元ラノベ編集視点から見たお互いが納得する為のイラスト発注

可視範囲内で見かけたもっともな指摘を受けていくらか補足・訂正】【100ブクマ突破してたのでちょいちょい追記。】

大昔にラノベ編集者をしてた。そのとき経験を書く。

基本的に、イラストレーターさんにとってラノベイラスト仕事は割に合わない。締切は外道だし、イラストの量も膨大だ。

仮に、ラノベ1冊のイラスト発注するとする。カラーイラストカバー1枚・口絵3枚(口絵4ページに対して単ページ2枚と見開き1枚)の計4枚、本文中のモノクロ10枚が1セットだろう。カラーイラストに5営業日モノクロイラスト1枚に1営業日という計算で、最低でも1冊あたり30営業日=1.5ヶ月分の工数を割いてもらうことになる(厳密にはキャラクターデザイン工数も別途計算しなきゃなのだが、意図的割愛してます)。

【本職の某氏から指摘を受けて気づいたので補足訂正。ここでの「1営業日」は稿料計算の為に出した仮の日数であり、実際のスケジュール調整の参考にしてはならない。たとえば、カバーイラストの「5営業日」などは「発注から完成まで5日で十分」という意味ではない。現実問題として、一つの仕事に丸々5日間かかりっきりになってもらうのは不可能なので、合間合間に別の仕事をしてもらったり、休み休み仕事をしてもらうことを前提にすると、最初発注から納品までどれだけ急ぎでも2週間、最低でも1ヶ月は日数を確保すべきである個人的には、同人仕事を依頼するなら、発注ラフ→線画→仕上げの各プロセスで1ヶ月以上は作業期間を設けて、最初発注からイラスト納品まで3ヶ月くらいは見ておいた方がいいと思う。それくらい開けないと、プロイラストレーターさんは同人イラスト仕事を受けてくれない、というか受けられないのではないか。】。

そうなると、本来なら計算上は人月単価1.5ヶ月分の稿料が発生するのが当たり前であるしかし、様々な事情によって、そんな予算はないわけだ。重版かかりまくった作品とかなら稿料もそれなりになるかとは思うが、中々そうはいかない。

それに加えて大量のリテイク地獄(たまにある)、小説原稿の遅延(よくある)、編集の怠慢による発注書の遅れ(もっとある)などが重なり、外道スケジュールに追い込まれることが多い。結果イラストレーター地獄を見がち。悲しいけどこれ現実なのよね。商業だと利害関係者が膨大なので、どうしても各種調整により色んな問題が発生しがちである

一方で、同人誌の原稿になると、別に本を落としても数十万単位での損害は発生しない。多少の融通は聞くはずである。いまから書くのは、増田イラストレーターさんに仕事をお願いするときに抑えておくべきと考えている、発注時のポイントであるキャラクター発注のコツはぶっちゃけ今でもわからないし増田のやり方が正しかったのか自信もないので割愛し、それより前の基礎的なことだけ書いたつもりだ(増田は以下の内容に加えて「売れるためのデザインや表紙」をディレクションするのが書籍編集仕事だと考えている)。同人イラスト発注したいと考えている方々は参考にしていただけるとありがたい。

原稿料に見合ったお願いをする

350dpiの文庫本表紙サイズの4Cイラスト1000円で依頼するのは正気の沙汰ではない……というのは直感的に理解してもらえると思う。時給1000円として1時間で描けるイラストってどんなもんやねん。ただ、その一方で、カラーイラストに対する金額がわからないのも実情ではないか

この辺りは、「そのイラストを何営業日かけて描いてもらうか」を念頭に考えるのがいいと思う。たとえば、商業イラストレーターさんにイラストを依頼するのであれば、一番安くても人月20万円の仕事(本当に一番安いことを前提です)として、1営業日1万円、前述の通りカラーイラストは1枚につき最低でも5営業日はかかると考えて、5営業日で5万円になる【税金を加味していないという指摘はもっともです。お恥ずかしい。+10%は提示すべきですね…】。

直感的に「高い」と思った方の感覚否定はしない。金銭感覚は人それぞれだ。だが、それでもイラストレーターさんの仕事としては、月20万円分にしかならないのであるあなたイラストレーターに敬意を払うならそれくらいの前提は持ってもらいたい。

もし、様々な事情でそれ以下の予算しか用意できないなら、なにかしらの融通をきかせる必要はあるだろう。たとえば、依頼するイラストの構図を一から考えてもらうのか、こちらで事前に指定するのか。キャラクターデザインを「小説の本文を読んでもらって一から考えてもらう」のか「事前に発注書をガッチガチにかためてそのとおりに作ってもらう」のか。

重要なのはイラストレーターさんの負担を減らすことである。そして、人間は「考える」ことに労力を要するのだ。予算が潤沢ならイラストレーターさんのクリエティティを存分に発揮してもらえばいいが、そうでないならできる限りイラストレーターさんの負担を減らしてあげるべきである

そして、負担を減らすとは、発注における「曖昧さ」をなくすということだ。可能な限り、曖昧発注はしないようにしよう。

※ただし、そういった「ガッチガチ指定」に近づけば近づくほど、イラストレーターさんは「言われたことをやるだけの存在」に近づかざるをえない。発注者と受注者という関係本質的にそうなってしまうかもしれないが、それはそれとしてそのことを嫌がる方もいると思う。発注相手がはじめて連絡する相手なのか、関係性のそれなりにある友人なのかで許容可能曖昧さは変動する。この辺りは臨機応変に考えていただきたい。

重要追記

ごめん大事なこと書き忘れたけど「文庫本表紙カラーイラスト5万」は【商業で】依頼する金額としてめっっっっっちゃ安いからな!!!!!!!!!!!!

「5万で頼むのは相手を額面月収20万扱いすることと同義」くらいの意味で書いたんだけど俺が悪かった!!!!すまん!!!!!!!!

あと「平均的な金額を書け」と言う批判も見たが、本当に申し訳ないことに「元」なので自分のいたところ以外の金額相場を知らんのだ……。

商業であれば許されない金額同人イラスト発注できるのには理由がある。相手趣味とかスケジュールとか工数の簡略化とか」という話です。特に商業イラストだとせっかく描いてくだすったイラストを、様々な理由によって(時には相手感性否定するかたちで)リテイクせざるをえないことが多くて、そういったことを込みで考えると稿料はもっと高くてしかるべきなのだ

発注要件最初にすべて提示する

これは絶対だ。

たとえば、「イラストを1枚お願いしたい」とだけお願いしてあとからイラストの点数を増やすのは一番最悪なパターンだ。最低でも、

は全部伝えること。

発注要件はいくつかのレイヤーを設ける

どちらにとっても不幸なことは「聞いてない!」の発生だ。

  • 絶対に変えられないこと/原則守ってほしいこと」
  • 「できればお願いしたいこと」
  • 可能であればお願いしたいが無理なら不要なこと」
  • こちらでは考えが未定なので、できれば提案していただきたいこと」

といった、いくつかの発注レイヤーを設けておくのが望ましい。柔軟性のレイヤーを設けておかないと、前述のとおりイラストレーターさんを「言われたとおりに描いてもらう存在」として扱うことに繋がりかねない。また、「絶対に変わらない発注要件」を明示しておかないと、イラストレーターさんが仕事に関する予測可能性を確保できない。たとえば、リテイクに関する同意はとりつけておいた方がいい。「リテイクは1回まで」「リテイクを出すときは24時間以内に出す」など。そういった取り決めを設けた上で、取り決めをこちらが破った場合は追加予算を払うといったルールを設ける。

前述の予算問題にも絡むが、あんまり予算が出せないときは「リテイクは絶対に出さない(〇回まで)」といったルールを設け、イラストレーターさんの不安を最小限に抑えるといった心遣いは重要だと思う【ちなみに、実際にラノベイラスト発注したときに「リテイクを出さない」という約束を設けたことは一度もない。あとリテイク費用を出せたこともない。リテイク云々は「最悪利益が出なくてもいい非商業発注」だからこそ簡単に取り決められる話だと認識している】。

小説原稿だけを送りつけない

大変失礼ながら、同人小説原稿は多かれ少なかれ「読みづらい」。本文をイラストレーターさんに読ませることを強要してはならない。その前提でいるべきである。本文をそのまま送りつけて「この話のこのキャラクターを」とお願いするのはもっての他であるイラストなしの長編小説からキャラクターの外見描写を抜き出す作業想像してみてほしい。むっちゃくちゃめんどくさい。

たとえば、女の子イラストを描いてもらうなら

くらいは事前にこちから提示したい。なお、これは「原稿を送ってはならない」という意味ではない。作品雰囲気がわからないのにイラストを描いてもらうの大変なので。小説原稿を送った上でちゃんイラスト指定をまとめておくこと。

この辺りはキャラクター発注書の作り方に踏み込むからそろそろやめておくが(飽きてきたとも言う)、文章で全て書く必要はない。「こういうイメージで」とGoogleで拾った画像を投げるだけでも随分違う。

追記

肝心なことを書き忘れていたが、そもそもの前提として

相手事情確認する

こういった諸々をいきなり提示たからといって、それだけで先方が楽になるとは限らない。相手にも相手事情があるからだ。

相手商業デビューしたイラストレーターさんなら、相手スケジュールを必ず確認しよう。別に相手が締め切りを破るの前提に考えるべき」と言っているのではない。商業仕事の締め切りと、同人仕事の締め切りが重なった場合、当たり前だがイラストレーターさんは商業仕事を優先するに決まっているのだ。イラストレーターさんが商業作家だったり、あるいは商業での仕事が降ってきかけている方だったりする場合は、そのスケジュール可能な限り把握して、その上で「商業を優先した場合同人スケジュール」を逆算すべきなのである

追記

普段その人が描きなれてないものを依頼するなら工数を多く見積もるべき」みたいな話もあるがこれも割愛している。これ以上細かい話になるとボロが出るので。

スケジュールに余裕をもたせる

これをしない人がものすごく多いが、上記のようなスケジュール計算ガチガチにやっても、スケジュールは、絶対に、遅延する。

同人イラストでリテイクや修正を出す事例はどれほどあるかわからないが、たとえばスケジュールの中に修正対応の期間を計算に入れているだろうか。同人誌だったら多少は余裕を持たせられるはずだ。冬コミイラストを仮にお願いするとしたら、仮に11月中旬が最終締め切りだとして、あちらこちらにマージンを設定して提示する締日は10中旬くらいにすべきである

最後

諸々書き殴らせてもらった。思いついたり批判を受けたりしたら適宜追記修正する。

なお、これらは失敗から学んだことであり、書き手増田がそのように振る舞っていたことを意味しない。つまり投稿過去仕事をしたイラストレーターさんへの贖罪意味合いが強い。皆さんは増田のような失敗をしないでいただけるとさいわいだ。

anond:20190519061244

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    • 重要な伏線になってるシーンの挿絵で、 そこにいるはずのないキャラクターが書かれていてめちゃくちゃ混乱させらたことがある。 文章中ではそこにいることは明記されてなくて、 実...

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  • 女性向けにはあんまり通じない話かも ・自分が誰かに描いてあげたケース 儲けるやつが極端に嫌われるから出す側もそこを怖がってることが多い 人物二人(極端なアオリ構図がいいと...

    • 元編集増田です。「発注を受ける絵描きさん」から「増田の視点にはなかった、的を射た異論」をいただいたのはこちらの方だけだったのでせっかくながら返信させていただきます。 ...

      • たとえば、商業と同人の一番の違いって、「厳密な締め切りがない」「イラストに対する細かなリテイクがない」「好きなものを描ける」あたりだと思うんです。だから、そういった「...

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