2017-04-13

スタージュエルを探しにいこう

スタージュエルを探すには少しだけコツがいるんですよ」と先輩は、はにかみながらそう言った。

僕は先輩のその笑顔に、叶わない想いを寄せていた。

先輩と知り合ったのは半年前だ。東京大学に進学し、新しい生活に少し馴染んだ僕は、生活費のアテのため、バイトを探すことにした。そして、たまたま募集されていた有名な芸能事務所事務補助という名の雑用係に運良く採用された。先輩は若草色のジャケットに身を包み、よく働いた。先輩の笑顔は素敵だが、怒らせるとおっかなかった。

よく晴れた冬の日に、先輩に声を掛けられた。「今度の金曜の夜は空いてますか」と。今週末の金曜日満月でありーー月が一番きれいな夜だ。

先輩の話によると、事務所に保管してあるスタージュエル在庫が少なくなってきたらしい。スタージュエル用途は色々あるが、芸能活動を行う上で、必要不可欠なものだ。今度の定期配布会に備えて、今のうちに採りに行く必要がある。僕はダウンジャケットを抱きしめ、使い捨てカイロの性能を恨みながら、東京のタワーのてっぺんで先輩の到着を待った。ーーどうやら早く来すぎたらしい。

僕が到着してからしばらく待った後に、先輩は来た。そんなに張り切らなくてもいいですよと、先輩は笑ってくれた。

東京タワーてっぺんから、月に向かって線路を伸ばす。やがて線路は月に届く。線路をタワーの土台にしっかりと固定し、線路の上にゴンドラを載せた。ここから月までは40分ほどかかるらしい。ただ乗るだけなら持て余すがーー先輩と乗るには短すぎる時間だ。

月に向かうゴンドラの中で、先輩は僕に水筒に入った温かいお茶をくれた。そして、仕事のこと、学校のこと、恋愛のことを少し話した。

月は東京以上に冷え込んでいる。重力は軽く、草も生えない。先輩の運転する車でスタージュエルが降る場所へと向かう。雲のない澄みきった大気を縫って、車は走る。

しばらく走った後、目的場所に到着した。事務所管理しているスタージュエル採石場は思いのほか近い。僕はドアを開け、冷たい空気を吸う。

そこは一面の綺羅星だった。

スタージュエルはその名の通り、星の宝石であり、かけらなんですよ。宝石って、どうやって出来るか知っています?」

僕は乏しい理系科目の知識を振り絞り、答える。

「ええと、確か地中のマグマが固まって出来るんですよね」

先輩は片目を閉じて、「うん、だいたい正解ですかね」と言った。

スタージュエルは夢のかけらなんですよ。無くした希望、失った夢、叶わない恋。そんな星になれない想いが積もり、固まってスタージュエルになる。こんなにも綺麗なのに、星になれずに、月の片隅で埋もれて光ることしか出来ない。切ないですよね。ーー悲しいというよりは」

先輩は両手でスタージュエルを、そっとすくった。

「叶わない想いだから、夢になれないかけらだから、こうして光輝くのかもしれません」

僕は先輩の横顔を眺めながら、

「僕の光も、ーー先輩の光も、いつか消えてしまうのでしょうか?」と聞いた。

「消えない光はないですよ。しかし、明けない夜もない。付いたり消えたりを繰り返しながら、私たちは生きていくしかいかもしれませんね」

いつかは消えてしまう光の中で、先輩はくすくすと、綺麗に笑った。僕もつられて笑う。

スタージュエルが放つ輝きの中、僕は地球のことを思った。

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