もう2年近く前になるのだが、「変圧器で電流1/4倍事件」と(僕が勝手に呼んでいる)いう出来事があった
違法に設置された電気柵に触れ、2名が感電死した痛ましい事件のことは覚えておいでだろう
この事件で、設置者が商用電源をトランスで昇圧していたことが報じられたときの出来事である
当時まだ古舘伊知郎がキャスターを務めていた報道ステーションにて、「変圧器で電圧を4倍に上げていたので、被害者の身体に(変圧器を使わなかったと仮定した場合に比べ)4倍の電流が流れた」(括弧内は筆者注)旨が放送された
これに報ステ憎しの心を抱いた大勢の科学に自信ニキが噛みついて醜態を晒した(と僕はみなしているが、当人たちにその自覚があるかは定かではない)のである
ことの顛末はこのあたりにまとめられているが、少し分かりにくいかもしれない
100Vを400Vに昇圧したら流れる電流は1/4になる - Togetterまとめ
要するに彼らは「変圧器で電圧をn倍すると二次電流は1/n倍になる」という教科書知識を間違って援用してしまったのである
※100Vの電圧に100Ωの抵抗を噛ませれば1Aの電流が流れるが、変圧器を介して400Vに昇圧すればオームの法則により当然4Aの電流が流れる。なおこのとき一次側には(容量が許せば)100V、16Aの電流が流れており、「一次側と二次側を比較すれば」上記の性質が成り立っている
つまりこの有名な性質は、ある電圧電流を印加している時の一次側と二次側の電流電圧の関係を表すものであって、「変圧器を使った時と使わなかった時」の比較に使うものではないことを彼らは正しく理解していなかった
話が込み入ってしまったが、要するにこの出来事が象徴するのは、ツイッターで日頃偉そうに「放射脳」やら「エセ科学」を罵っているような連中の多くも、一皮剥けばこの程度の科学知識しかないということだ
彼らは自分が「科学側」にいるかのごとき尊大な態度を取るが、その実全然理解などしておらず、「科学側」の偉い人の言うことにただ乗っかっているだけだとしたら……なまじ「科学を分かったつもりでいる」ぶん、「放射能」や「エセ科学」に染まっている側よりもタチが悪い
念のため言っておくが、もちろん筆者は科学を否定するわけでも、「放射脳」や「エセ科学」を肯定するわけでもない
ただ正確な知識も、それを運用する能力もないのに「科学」を騙る連中が許せない。こういった連中の騙る「科学」はそれ自体彼らの排撃する「エセ科学」と大差ないものになってしまう。
「権威ある」言説に乗っかってマウントを取りたいだけの人はたくさんいるが、その燃料に「科学」が用いられるのは悲しいことである