「2000万円のお返しになります」
コンビニのレジで女は言った。にせんまんえん、の、おかえし。通常お返しというのはお釣りのことで、通常この国で流通している最高額紙幣は一万円札だ。従って通常お釣りは1万円を超えない。にせん、まんえん。
追撃が入る。
「2月14日はバレンタインデーです。私は貴方に1000万円相当のチョコレートを差し上げようと考えました」
そんなものは貰ってないです。
「そう、ご存知の通りこれは諸般の事情によって果たせなかった。心より残念に思います。わたし、あそこのベンツの形をした乗れるチョコレートを差し上げようとチョコレートの魔女に弟子入りまでしたのです。けれどベンツでしょう?いかんせん禁煙がうまくいかなくて」
湯煎したチョコレートのボウルから螺子やホイールを引き出そうとしても、タクシー模型やら頭につける方のボンネットやらが出てきてしまうものだから魔女の3つの顔にかわるがわるダメ出しをされたのだという。
「ところで三倍返しというルールはご存知でしょうね?」不知ないし否認し「先月14日、私は1000万円を貴方に渡そうとしました」
あの。
「ですから貴方には今月14日、私に対して3000万円相当の『お返し』をする義務が生じているのです。未だ履行を見ていない私の1000万円については慚愧に堪えませんが、やむを得ず『お返し』の一部と相殺して頂くことにして、お返しは2000万円で結構ですよとこういうわけです」
そんなわけで2000万円の債務を負うことになった。