2017-01-24

[] #13-2「弟が出来るまで」

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あれは俺が、今のお前と同じくらいの年齢のときだ。

かしこまった態度で、父と母がこんなことを言ってきた。

「息子よ。弟か、妹は欲しいか?」

俺にはその質問意味するところを把握できていなかった。

どういう経緯でそういう話が出てきたのかが、俺は分かっていないからだ。

「俺が欲しいといったら手に入るものなの?」

「いや、そういうわけじゃない」

「なんだよそれ。だったら俺に聞く意味ないじゃん」

家族が増えるかもしれない話だからあなた意見も参考にしたいのよ」

妙な話である

現状、目の前にいない存在を欲しいのかと聞かれて、仮に答えたとしてその意見がどれほど参考になるというのか。

「どちらか選べるの?」

生憎だけど選べないわ」

「うーん……時期は何時ごろ?」

「追って報告する」

「なんだ、あまり融通は利かないんだね」

「そうだ。これはカテイの話だと考えてくれ」

「カテイ?」

父はそう言ったものの、それにしてはかなり真面目な雰囲気だったことは当時の俺ですら分かった。

それを踏まえて奇妙だと感じたのは、ほぼ重要プロセスは両親次第と説明している割に、俺の意見を参考にしていることだ。

まり、この場で俺の意見を参考にするということは、とても重要意味を持つことになる、と解釈した。

「……ちょっと考えさせて」

それにしても父と母も大概である

家族が増えるか否かの重要選択を、なぜ俺にさせるのか。


翌日も考えを保留したままだった。

その日は友人たちとドッジボールで遊んでいたが、どうにも身が入らず早々に脱落した。

そんな俺の様子は明らかだったのか、心配してタイナイが話しかけてきた。

「どうした、マスダ。今日調子悪いじゃないか風邪か何か?」

「いや、風邪じゃない。だが重要課題だ」

課題? そんなの出たっけ」

「カテイの話だ」

「カテイ?」

「そうカテイの話。俺の弟か妹が欲しいか、って聞かれたんだ」

「そうなんだ。でもカテイの話だろ? そこまで重く考えなくていいんじゃないか?」

「カテイの話だからこそだ」

話したところで仕方がないのだが、俺は何でもいいからヒントが欲しかった。

俺は何かを探るようにタイナイに質問をしていった。

タイナイは妹がいるんだっけか」

「ああ、いるね。一つ下の」

「その子が生まれる前、弟か妹が欲しいかって聞かれた?」

「うーん……聞かれてないね。多分」

答えを期待していないからなのか、我ながらナンセンス質問である

「まあ、子供を生むのはお母さんだしなあ。ボクに聞く必要なんてないだろうし」

タイナイもやはり同じ考えである

だが、それでは答えにならないのだ。

「マスダは、キョウダイいらないの?」

「そういう話をしているんじゃない。俺の意志はどれほどの意味を持つかって話だよ」

自身が欲しいとか欲しくないとかで考えられない以上、何かそれを判断すべき物差しがいるのだ。

或いは俺の意見を聞くのがどうでもよくなるほどの、煙に巻く何かが……。

「そうはいっても、そういうの聞くべき相手って家族くらいしかいないだろ」

タイナイのその何気ない言葉に、俺はハっとする。

肝心なことを失念していたのだ。

タイナイ、話を聞いてくれてサンキュー

「答えは見つかった?」

「俺よりも聞くべき相手いたことに気づいたんだ。俺の答えは、それを聞いてから決めても遅くない」

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