あれは俺が、今のお前と同じくらいの年齢のときだ。
かしこまった態度で、父と母がこんなことを言ってきた。
「息子よ。弟か、妹は欲しいか?」
どういう経緯でそういう話が出てきたのかが、俺は分かっていないからだ。
「俺が欲しいといったら手に入るものなの?」
「いや、そういうわけじゃない」
「なんだよそれ。だったら俺に聞く意味ないじゃん」
「家族が増えるかもしれない話だから、あなたの意見も参考にしたいのよ」
妙な話である。
現状、目の前にいない存在を欲しいのかと聞かれて、仮に答えたとしてその意見がどれほど参考になるというのか。
「どちらか選べるの?」
「生憎だけど選べないわ」
「うーん……時期は何時ごろ?」
「追って報告する」
「なんだ、あまり融通は利かないんだね」
「そうだ。これはカテイの話だと考えてくれ」
「カテイ?」
父はそう言ったものの、それにしてはかなり真面目な雰囲気だったことは当時の俺ですら分かった。
それを踏まえて奇妙だと感じたのは、ほぼ重要なプロセスは両親次第と説明している割に、俺の意見を参考にしていることだ。
つまり、この場で俺の意見を参考にするということは、とても重要な意味を持つことになる、と解釈した。
「……ちょっと考えさせて」
それにしても父と母も大概である。
翌日も考えを保留したままだった。
その日は友人たちとドッジボールで遊んでいたが、どうにも身が入らず早々に脱落した。
そんな俺の様子は明らかだったのか、心配してタイナイが話しかけてきた。
「どうした、マスダ。今日は調子悪いじゃないか。風邪か何か?」
「課題? そんなの出たっけ」
「カテイの話だ」
「カテイ?」
「そうカテイの話。俺の弟か妹が欲しいか、って聞かれたんだ」
「そうなんだ。でもカテイの話だろ? そこまで重く考えなくていいんじゃないか?」
「カテイの話だからこそだ」
話したところで仕方がないのだが、俺は何でもいいからヒントが欲しかった。
「タイナイは妹がいるんだっけか」
「ああ、いるね。一つ下の」
「うーん……聞かれてないね。多分」
答えを期待していないからなのか、我ながらナンセンスな質問である。
「まあ、子供を生むのはお母さんだしなあ。ボクに聞く必要なんてないだろうし」
だが、それでは答えにならないのだ。
「マスダは、キョウダイいらないの?」
「そういう話をしているんじゃない。俺の意志はどれほどの意味を持つかって話だよ」
俺自身が欲しいとか欲しくないとかで考えられない以上、何かそれを判断すべき物差しがいるのだ。
或いは俺の意見を聞くのがどうでもよくなるほどの、煙に巻く何かが……。
「そうはいっても、そういうの聞くべき相手って家族くらいしかいないだろ」
肝心なことを失念していたのだ。
「答えは見つかった?」
「俺よりも聞くべき相手がいたことに気づいたんだ。俺の答えは、それを聞いてから決めても遅くない」
「俺ってどうやって生まれたの?」 ある日、弟の投げかけた言葉である。 ああ、とうとう来てしまったかと思っていたにも関わらず、両親は動揺した。 命題であることもそうだが、...
≪ 前 俺は家に帰ると、真っ先に父と母を呼んで先日のことを切り出した。 「父さん、母さん。昨日のことだけど……」 「お、そ、そそうか」 かしこまった態度に、二人の緊張が読...