前回までのあらすじ
俺、マスダ!
いま、この世界では『ヴァリアブルオリジナル』がすっげえ流行っているんだ。
かくいう俺も、その流行の住人なんだけどね。
今日も家で何気なくアニメを観ていたら、CMでなんてこったい!
大変だ! 今すぐ買いに行かなきゃ!
俺一人だと年齢制限に引っかかって購入できないから、兄貴を連れてレッツゴーだ。
こうして、俺たちは町に繰り出したんだけど……おっと、ここからは兄貴に語ってもらうよ。
「くそお、どこもかしこも売り切れだ! ネットにも出回っていない情報だから、スタートダッシュは同じはずなのに」
数件ほど回っているが、店主から帰ってくる答えは「売り切れ」だった。
一応、いくつか在庫のある店はあったものの、新パック目的の人たちは多くいるようで混沌としており、泥沼の紛争地帯と化していた。
あの中を掻き分けるのは子供の力では難しく、もちろん俺はハナから興味がないので拒否する。
弟は指を咥えて見ているしかなかった。
「一部のコアなファンの仕業です。これまでの発売時期や期間、アニメから読み取れる僅かな情報からヤマをはって、開店前から並んでいたのでしょう」
いきなり俺たちに近づいて話を展開させてきたのは、俺の通っている学校のOBであるジョウ先輩だった。
大人の中にも熱中している人間がいるとはメディアでも報道されていたが、まさか身近な知り合いにいたとは。
「小癪なのは、意図的に流通を少なくしている上、予約を受け付けていないことです。そうすることで店になだれ込ませて話題性を作り、購買層を煽っているのでしょう」
弟がジョウ先輩に突っかかる。
口調が無意義で鼻についたらしい。
「小童、覚えておきなさい。平日の昼間以外に働く人間だって多くいるのです」
「え、ジョウ先輩って夜間とかの勤務でしたっけ」
「ほほほ、兄弟そろってお子様ね。今日のワタクシは、有給ですのよ!」
つまりジョウ先輩は新カードパックのために、発売時期にヤマを張って有給をとっていたことになる。
何日分使ったかは怖くて聞けなかった。
「既に5箱確保しました」
「5箱も!?」
「同じカードでもデッキに複数入れることが可能ですから、多すぎて困るということはありません。それに運悪く目的のレアカードを引き当てられないこともありますから、出来る限り確保しておきませんと」
「ちくしょう! あんたらみたいな大人がいるから、俺たちに1パックもこないんだ!」
「ほほほ、覚えておきなさい小童。これが“大人買い”というものです!」
「負け惜しみにしか聞こえません。ほらほら、こんなところで油を売っていてよろしいのかしら?」
そもそも先に話しかけてきたのはジョウ先輩からのほうなのだが。
どうやら弟みたいな買い損ねた人間をおちょくって優越感に浸りたかったようだ。
ジョウ先輩は笑いながらその場を悠々と去っていく。
「くっ、まだだ。まだどこかに残っているはずだ!」
弟は踵を返し、走り出していた。
主題歌:「ファイティング・ジャストコーズ」 歌:ポリティカル・フィクションズ 作詞:マーク・ジョン・スティーブ 作曲:サトウスズキ 俺は生まれ変われる 現世での生活は...
≪ 前 前回までのあらすじ 俺、マスダ! 『ヴァリアブルオリジナル』の新パックを求めて町に繰り出したんだ。 けど、子供みたいな大人たちのせいで、どこもかしこも売り切れだ。 ...
≪ 前 前回までのあらすじ 俺、マスダ! 体力も限界に近づいていたその時、とうとう新パックを見つけたんだ。 けど、あのジョウとかいう明らかに嫌な奴が、この期に及んで邪魔し...
≪ 前 前回までのあらすじ ん……ああ、終わった? どれくらい時間がかかったか分からないが、決着がついたらしい。 弟の解説によると、デッキの完成度とその戦術の理解度が明暗...