2017-01-02

ひろし

ひろしは開封前の缶の中に居る。

ひろしの周りは常に水分で満たされている。

から自体が転っても、大きく体が回転する程度であまり影響は無い。

たとえ床に落とされても、その衝撃は中のひろしにはさほど伝わらない。

中にひろしが産まれた後、その缶は幾度となく揺れ動くが、短い落下を感じた後は自分の番が来るまでひたすら待機となる。

この待ち時間の間だけ、ひろしは自由存在になれる。

もちろん狭い缶の中だけ、という条件付きではあるが、眠ることもあれば、自分人生を振り返ってみる場合もある。

ひろしの生きる空間を満たす水分は、彼の主食でもある。

基本的には少食だが、たまには少し口にする。

ただその場合、液体が減ると共にひろし自体の重量が少し増えるため、例え外から見ていても特に変化は無い。

そして長い待機を経て、ひろしの番がやってきた。

幾度か続く電子音の後、ゴツンという軽い衝撃音と共に、固いものの上に落下する感覚

その後「キュパッ」という音がしたかと思うと、缶の中に外の空気が一気に入ってくる。

でも、ひろしはその瞬間、液体に溶けてなくなってしまう。

缶の中は、ひろしが居なかった時の状態に戻る。

ひろしはそこで新しいひろしへと生まれ変わり、次の缶を求めて彷徨い始めた。

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