ひろしは開封前の缶の中に居る。
ひろしの周りは常に水分で満たされている。
だから缶自体が転っても、大きく体が回転する程度であまり影響は無い。
たとえ床に落とされても、その衝撃は中のひろしにはさほど伝わらない。
中にひろしが産まれた後、その缶は幾度となく揺れ動くが、短い落下を感じた後は自分の番が来るまでひたすら待機となる。
もちろん狭い缶の中だけ、という条件付きではあるが、眠ることもあれば、自分の人生を振り返ってみる場合もある。
基本的には少食だが、たまには少し口にする。
ただその場合、液体が減ると共にひろし自体の重量が少し増えるため、例え外から見ていても特に変化は無い。
そして長い待機を経て、ひろしの番がやってきた。
幾度か続く電子音の後、ゴツンという軽い衝撃音と共に、固いものの上に落下する感覚。
その後「キュパッ」という音がしたかと思うと、缶の中に外の空気が一気に入ってくる。
でも、ひろしはその瞬間、液体に溶けてなくなってしまう。
缶の中は、ひろしが居なかった時の状態に戻る。