2016-12-15

[] #9-3「映画ミカタ

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「うひゃあ、なんだかスゴイことになってるなあ」

会計を済ませて店を出ようとすると、すれ違いさまに見知った人間とすれ違った。

俺と同じ学校に通っているカジマとタイナイだ。

「『アレ』を観た後の感想合戦で、周りの人たちがああなってしまったんだ」

「うん、『アレ』? なにそれ? 分からないなあ」

タイナイの生活圏的に『アレ』を知らないわけがないし、すっとぼけた態度をとる意図は謎である

本当に知らないとしても、まるで知らないほうが誇らしいみたいな態度はオサカの癇にさわり、みるみるうちに紅潮し始める。

「ああ、『アレ』ですか、自分も観たっす。面白かった」

カジマの屈託ない感想にオサカと俺は気持ちが少し和らぐ。

主人公の快活な生き方に感銘を受けたっす。あれは自分小学生のころ……」

まずい、自分の身の上話をする方がメインのパターンだ。

「そうかそうか、俺たちは急いでいるから、じゃあなカジマ!」

俺たちは逃げ出すように、どこか人気のない場所を求めて走り出した。


俺たちは人気の少ないところまで逃げていた。

店を出てから全く喋らなくなっていたオサカは、息を整える間もなく喋りだした。

「な、なんだ、アレ。本当にあいつらは同じ映画を観ていたのか?」

「まあ、タイナイの奴はともかく、いちおう挙げられていた要素に不備はないから観ているんだろうな」

強いて差異を挙げるならば、オサカが映画中心の話をしていたのに対して、あの人たちは映画を基に違うことを語っていた。

方向性が違う、ということなのだろうか。

「そりゃあ物事は多側面だから語ることもできるだろうけれど、あれを観て真っ先に出てくる側面か? 本質や、前面が見えていない」

オサカの言葉は怒りに満ちていた。

映画がまるで踏み台、いや踏み絵……あれ、どっちだったっけ」

オサカの言いたいことは、映画をそこまで観ない俺でも何となく分かる。

だが俺もオサカも納得できるものを用意していなかった。

ふと思い出したのは、『アレ』を観るようススめた店長のことだった。

店長がこうなることを考えていなかったとは思えない。

あの意味深発言説明がつかないからだ。

出来れば俺たちで答えを見つけるべきなのかもしれないが、このままでは今日を眠れない。

アフターだったが、店長に訊ねなければいけない。

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記事への反応 -
  • 映画の内容は、たぶん面白かった。 俺はそこまで映画を観るわけではないので相対的にどうかは分からないが、映像は綺麗だし、アクションシーンも盛り上がっていた。 ストーリーも...

  • ≪ 前 店長は、まるで俺たちがくるのを待っていたかのように、店内に構えていた。 「店長、『アレ』を観に行きました。映画自体は面白かったです。もちろん完璧ってわけではないで...

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