2016-12-14

[] #9-2「映画ミカタ

≪ 前

映画の内容は、たぶん面白かった。

俺はそこまで映画を観るわけではないので相対的にどうかは分からないが、映像は綺麗だし、アクションシーンも盛り上がっていた。

ストーリーも設定の割に意外と分かりやすい。

オサカがどう感じたかは分からないが、感想を言いたくてウズウズしているようなので、直に分かるだろう。

俺たちは映画館近くの喫茶店に入る。

席についた途端、オサカはまくし立てるように語り始めた。

しかし、監督個性が色濃く出てたな。彼の既存作品と似ている演出散見される」

「そうなのか?」

「まあ、元々あの監督映像作品ルーツ特撮といえるからな」

正直いうと、俺はその監督をよく知らない。

なぜ映画ストーリーだとか内容ではなく、いきなり監督の話をし始めるのか、俺にはよく分からなかった。

監督一人で映画ができているわけじゃないし、映画に出ているわけでもないんだから、他に話すことはありそうなものだが。

スタッフスタジオなどの体系から作品を読み取るってのは重要なんだ。特に監督はその作品の核なんだよ。制作途中で監督が変わって、グダグダな出来になった映画を数え切れないほど観てきたからな」

「すまん、ピンとこない」

「例えるなら、ゼルダでいう宮本茂なんだよ」

「ああ、絵本でいう西野みたいなものか」

「それはちょっとよく分からないが……」

「まあ、監督の話はほどほどに、ストーリーとか構成の話をしようぜ」

「そうだなあ、アクションシーンは盛り上がっているけれども意外に動的じゃなく、静的な構成だったな……」

「へえ」

「だから登場人物が今回の出来事を経ての精神的な成長は、実のところそこまでじゃないんだ。それぞれが自分の元の人格から構成された言動と、その中で出来ることをやっている」

オサカは喜々として語り始める。

俺は適当に相槌を打ちながら、オサカに奢らせるメニューをどうするか考えていた。

すると突然、後方から妙な怒号が飛び交いはじめる。

その人たちは、恐らく先ほど俺たちと同じ映画を観ていた人だろう。


「なぜ主要人物が男だったところを女ばっかりにしたのか」

「なんだと、女性蔑視だ!」

領民の扱いもおかしい」

時代背景や、設定、演出戦争を蜂起させる」

チキンホーク、故にターキー!」

おいおい、何だか俺たちとはあまりにも別ベクトルなことになっているぞ。

映画の話ではなく、もはや政治の話だ。

オサカはオサカで気にせず感想を述べようとしていたが、徐々に不機嫌になっていくのが見て取れる。

こりゃあ、オサカが爆発する前に、ここから離れたほうがいいかもしれない。

次 ≫
記事への反応 -
  • 映画ってのはどう観るのが正解か。 そして、作品ごとにどう受け止めればいいのか。 ひとまずベターな答えは「正解なんてない」ということになるのだろう。 じゃあ、正解がなけれ...

  • ≪ 前 「うひゃあ、なんだかスゴイことになってるなあ」 会計を済ませて店を出ようとすると、すれ違いさまに見知った人間とすれ違った。 俺と同じ学校に通っているカジマとタイナ...

    • ≪ 前 店長は、まるで俺たちがくるのを待っていたかのように、店内に構えていた。 「店長、『アレ』を観に行きました。映画自体は面白かったです。もちろん完璧ってわけではないで...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん