2016-10-28

あなたを捨てようとしてごめんなさい」

秋のよく晴れた日になると思い出す。

3歳の秋の日、母が朝からおにぎりを作ってくれて、

「お出かけしよう」と言って電車に乗って遠くに行った。

行き先は山も海も見える田舎町だった。

真っ白い堤防のようなところで、母がベンチに座らせて、

ちょっとお母さん飲み物買ってくるから待っててね」と言った。

ベンチにお弁当水筒と上着を置いた。

「わかった、ママありがとうバイバイね」と言ったら、

母は顔をそむけて走るように去って行った。

私はぼんやり座ってた。山はまだらに赤くて、空にはトンビが飛んでた。

しばらくして母は戻って来て、無言で一緒に弁当を食べて家に戻った。

成人して家を出て行くという日に、母はあの日の話をして、

あなたを捨てようとしてごめんなさい」と詫びた。

私は当時気付いてなかったふりをしたけど、勿論気付いてた。

それどころか、母があんまりに私の存在を疎んでるのを知ってて、

大好きな母が楽になるならそれでいいと思ってた。

寂しいけどこれもしょうがないことなのだな、と。

捨てられた私は次はどこに行くんだろうとボンヤリ考えてた。

去年結婚して、結婚式には両親も出席した。

私を捨てようとした母と、他人にむやみに金貸すのが趣味で散々妻子を苦しめた父。

私も順調なら年末に初めて親になる。

出来れば良い親になりたい。

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