十五夜、鈴虫の鳴き声に誘われてふらりと外に出た。雲間に見え隠れする満月を眺めながら歩いていると、「女坂」と書かれた石碑がふと目に留まった。
見上げるとそこには確かに急な坂道が続いている。しかし、わずか二十メートルほどの名前をつけるのには遠慮したくなるような、どこにでもあるような小さな坂である。
私はなんだか興味が湧いたのでこの坂を上ってみることにした。
女坂の始まりは、進むのもやっとの急な勾配から始まる。しかし、十歩ほど足を進めるとすぐに平坦な場所になる。
階段の踊り場のようなその場所から右を向くと平坦な土地が広がっている。ここは、どうやら駐車場として使われているようだ。
左を向くと、右にカーブを描きながらさらに険しい道が続いている。そのまま坂を上り切ると分かれ道となり、そこで女坂は終わっていた。
左には街頭の点いたきれいに舗装された道、右には鬱そうと生い茂った木々の暗闇の中に砂利道が続いている。
私はまず、きれいな道を進むことにした。まっすぐな道をしばらく行くと正圓寺(しょうえんじ)というお寺に出た。
門前には湧水を利用したであろう手水場があり、喉を潤すことができる。その隣には「聖天山(しょうてんさん)」と書かれた石碑があった。
聖天山の女坂を登ると正圓寺。なるほど、女が正しいご圓(縁)に導かれ坂を上れば昇天すると。。。ただの下ネタじゃないか!
女坂の名前をつけた昔の人は、よっぽどこの下ネタが気に入ったのだろう。まったく、ウチの近所は昔からこんなのばっかりかよ。
などと考えながら、今度は反対側の砂利道を進んでみることにした。
道を進むとひらけた高台に出た。そこには小さな社があり龍神様が祀られていた。
龍神様を取り囲むように、お稲荷さんやお不動さん、弁財天、お地蔵さんなど小さな祠や石仏がたくさん並んでいる。
なるほど、縁がなかった女はここで龍となって昇天するか、はたまた八百万の神となるということか。
女の道は引き返すことのできない一本道、途中の分かれ道がまさに運命の分かれ道だと諭しているのだろう。
月明かりに照らされた女坂を下りながら、人生の下り坂に差し掛かった気がした十五夜であった。
私はこの時、まさかこの駄文を書いている最中にウンコを漏らすことになるとは知る由もなかった。
完
うんこを漏らした増田