町内放送が、「今夜は星が降りているので係の人はよろしくお願いします。」と言っていたので、私は脚立と虫取り網を持って外へ出た。
空を見上げると、いくつかの星がすぐ目の前まで降りてきているのが分かった。
ある星は私のすぐ上を仄かに光りながら漂っていた。家の屋根に引っかかって動けなくなっている星もあった。
私はそれらの星たちをひとつずつ網で掬っていった。一番難しかったのは庭の木の枝に挟まっている星だったが、木に登って枝を揺らすことでなんとか取ることができた。
周りにあった星を全て取り終え、一か所に集めて待っていると、しばらくして荷台に装置を乗せた一台のトラックが現れた。
私が運転手に星を渡すと、運転手は星を装置にセットした。装置は勢いよく回転すると、星を上空に投げ上げていった。
私が集めた星が全て打ち上げられると、トラックはまた次の場所へ移動していった。
周りを見渡すと、町のあちこちで星が打ち上がっているのが分かった。
しばらくすると、また町内放送で「星が元の位置に戻りました。係の人はお疲れ様でした。」とアナウンスがあった。
少し疲れたので、早く家に帰って寝ようと思った。
家に戻ると、玄関が開けっぱなしになっていた。部屋の中に入ると、居間で大きな星がゆらゆらと漂っていた。
その日本刀のように細い姿は、どう見ても今夜の三日月だった。回収し忘れたことに気がついたが、もう後の祭りだった。
窓を開けて外を見てみると、満天の星空の中で、確かに月だけが見当たらなかった。
困ったことになったと思ったが、私にはどうすることもできないので、三日月はこのまま部屋に置いておこうと思った。
三日月は部屋の中をゆっくりと移動していた。家具にぶつかったり物を壊したりしたら困るので、ビニール紐でぐるぐると縛り、居間のテーブルの下に置くと、ようやく動かなくなった。