2016-06-22

さぶ職人の朝は早い

さぶ職人の朝は早い

冷たい水でザブと顔を洗い、

触れた指の腹の触感で、

さぶたになりそうな部位を探る。

スウと赤い糸を引くように、軽く爪を立てる。

焦ってはいけない。

この傷跡が、明後日のかさぶたを産むのだ。

さながら、漆職人のようである

丁寧に、着実に。

これがかさぶ職人モットーである

さぶ職人は、ずっとかさぶ職人をしていたわけではない。

昼間は、OLという、一時しのぎの金を得るだけの職業についている。

さぶ職人の合間にOLをしているのだ、

職人はこう語る。

「稼げるわけじゃないし、継ぐものもいない。

それでも、(かさぶたを)欲しいという人がいる限り

続けていきたいですね」

剥がしときに、生乾きで血が出てしまう失敗のことを「赤」と

呼ぶ。そうならないように、ちょうどいいタイミングを見極めるのに

だいたい3年はかかるという。

赤が続き、自分職人に向いてないのではと思った時、

直径2cmほどのハート形のかさぶたが取れた。

その美しさに、この道を続けていくことを決意したようだ。

世間的に(かさぶたをはがすことは)自傷行為と呼ばれています

美しいかさぶたを作ることの代わりだと思っています

傷つかず手に入れるものなんて、全て偽物ですからね」

職人は少し誇らしげな顔で言った。

インタビューが終わった後、仕込みがあるので、と職人

小走りで帰っていった。かさぶたへの情熱彼女を走らせるのだ。

その後ろ姿はとても頼もしく見えた。

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