冷たい水でザブと顔を洗い、
触れた指の腹の触感で、
かさぶたになりそうな部位を探る。
スウと赤い糸を引くように、軽く爪を立てる。
焦ってはいけない。
丁寧に、着実に。
昼間は、OLという、一時しのぎの金を得るだけの職業についている。
職人はこう語る。
「稼げるわけじゃないし、継ぐものもいない。
それでも、(かさぶたを)欲しいという人がいる限り
続けていきたいですね」
呼ぶ。そうならないように、ちょうどいいタイミングを見極めるのに
だいたい3年はかかるという。
その美しさに、この道を続けていくことを決意したようだ。
「世間的に(かさぶたをはがすことは)自傷行為と呼ばれていますが
と職人は少し誇らしげな顔で言った。
小走りで帰っていった。かさぶたへの情熱が彼女を走らせるのだ。
その後ろ姿はとても頼もしく見えた。