2016-03-30

人相が変わり過ぎて写真付きマイナンバーカードが発行されなかった話

Googleカレンダーに『区役所 マイナンバー』とあった。

 私(……はて?)

東武東上線区役所へ向かいながら、私は記憶をまさぐる。最近、物忘れが激しい。

夢見る季節はとうに越え、気づけばサーティーをアラウンドするオッサンになってしまった。

列車内のオッサンたちを見る。覇気がない。きっと私も死んだ顔をしているのだろう。

……そうだ。顔写真付きマイナンバーカード区役所で受け取るのだ。

何人のエンジニアが落命したのだろうと思いながら、ネットで受け取り予約をした。死んだオッサンの顔で思い出したゾ。

区役所の窓口は老人ばかりだった。

酷い混雑。職員と臨時パートと思しきオバちゃんがてんてこ舞いである。

予約せずに来る老人。情報漏えい不安だとキレる老人。通知のハガキなんて知らないとキレる老人。このシステムはまだエンジニアの血を吸うだろう。

時間近く待たされたあと、私だけが別窓口に呼び出された。

 小役人「これ、オッサンちゃうやろ?」

小役人(こいつもオッサンである)が突き出し写真付きマイナンバーカードには、見知らぬ兄ちゃんの顔が貼り付いている。

 私(だ、誰だ、お前は!)

ピンク色の脳がスカスカになりつつある私は、兄ちゃんの正体を推理する。

幼さが残る目元、血色の良い頬、フッサフサな頭髪。

まるで東京に心を壊される(NOT 比喩)前の、上京を控えた初心なカッペではないか。

 私(……私だ)

恐らく高校生の時に撮ったスピード写真である。十年以上前だ。

 小役人「これ、オッサンちゃうやろ? な? オッs」

 私「わ、私だぁ!」

イケないアンチエイジングではあるものの、嘘ではない。写真は私である。少しばかり時を駆け過ぎただけだ。

 小役人「なら顔認証システムに聞いてみよか」

カメラ付きノートPCの前にしょっ引かれる私。

 小役人「ちゃんとカメラ見んか、オッサン

高校生の私はちっこいスキャナで読み取られている。

 小役人「ハイ、黒!」

認証システムはちゃんと私が老いていることを見抜いた。

増長した役人は、私が差し出した運転免許証(今の顔)もスキャナに。

 小役人「ハイ、白! システム賢い!」

エンジニア犠牲は尊い。

老人たちの前で公開処刑された私に、ゴミを見るような眼差しを向ける小役人。同じオッサンである私を憐れんでいるようにも見えた。

 小役人「これ、書いてな」

渡された書類始末書……ではなく、登録抹消・再申請の用紙だった。データベース若い私を一度ポアし、オッサンの私を申告しろとのこと。

申請用紙には『3.5cm×4.5cm』のオッサン顔写真を貼らなければならない。

……思い出したゾ(2回目)

私は物持ちが良い。スピード写真ストック中学生自分もとい時分から大切にとってある。

そして『3.5cm×4.5cm』という中途半端サイズスピード写真が、高校生の時のそれしかなかったのだ。私は何の躊躇いもなく、無慈悲に""若い兄ちゃん""を郵送した。

なお、Webでの申請だと写真データ形式で送れる。スピード写真でオッサンの顔を撮らなくて済むのだ。

エンジニア犠牲は尊い。

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