2016-03-18

ある経歴詐称者のつぶやき

元はといえば半分冗談だったんだ。

うちの家系は何故か皆顔が濃い。

しかしたらご先祖ポルトガル人か何かの血が入っているのかもしれない。

だが、俺が知っている限り、曾祖父さんくらいまでは、全員純粋日本人のはずだ。

しかしとにかく顔が濃い。

おまけに毛深い。

小坊時代はこれで散々いじめられたんだが、ある時から開き直った。

俺はアイルランド系アメリカ人とのハーフニューヨークまれだ、って言ってやることにしたんだ。

さっき言ったように、最初は半分冗談のつもりだった。

まわりも冗談だってわかってた。

当時は父の仕事関係で転校が多かった。

そのうち俺の家のことを知る奴は誰もいなくなった。

そして、皆本当にこの冗談を信じるようになったんだ。

一部じゃ嘘つき呼ばわりもされたけどな。

なんでニューヨークまれなのに英語しゃべれないんだ、なんて言われるようになった。

しょうがないので、必死勉強した。

努力甲斐あって、ほとんどネイティブで通用するくらいになった。

鼻も整形した。

いくら顔が濃いとは言っても、元は純粋日本人なんだからハーフで通すには限界がある。

一念発起して死に物狂いでバイトして、それらしい鼻を手に入れた。

ついでにカラーコンタクトを入れるようにもした。

で、この顔と英語で、最初はつまらないナレーション仕事にありついたんだ。

そのうちラジオ仕事が入るようになったがこのままでは精々DJまりだ。

所詮高卒だしな。

箔をつけるために、海外名大学の出でコンサルタントをやっているということにした。

最初のうちはこれも半分冗談のつもりだったんだ。

からずバレるだろって思ってた。

やがて経済関連のコメントをする仕事が増えてきた。

はじめは正直言って完全に適当だったのだが、これではまずいと思い、また必死勉強した。

努力甲斐あって、大抵のことにはそれらしいコメントを返せるようになった。

元々まわりも適当な奴ばかりだからな。

自分で言うのもなんだが、俺のコメントはかなりまともだと思う。

新しい大きな仕事が入るたびに、学歴や経歴をそれらしく盛るようにした。

気付いたときには、こんなやつ本当にいるのか?、ってくらいとんでもないことになっていた。

自分で言うのもなんだが、こんなピカピカの経歴のある人間がホイホイとテレビに出ると思う方がおかしいだろ。

しかしまあ、ラジオだのテレビだのの業界馬鹿ばっかりだ。

こんな嘘くさい経歴を見てもなんとも思わない。

多少怪しいと思っても、見た目が良くてそれなりの実績があればお構いなしだ。

コメントの内容なんか気にする奴もいない。

どうせテレビ見てる奴も馬鹿ばっかりだからな。

茶番だな。

茶番と言えば俺の人生も大いなる茶番だ。

元々は半分冗談だったのだが、ふとしたときに、俺自身がこの冗談を本気で信じ込んでいることに気付くんだ。

そろそろ潮時なんだろうとは思ってる。

こんなこと、いつまでも大っぴらに続けられるもんでもないからな。

4月からある局で大きな仕事を任されるようになったんだ。

幸いまとまった金もできたし、この仕事が終わったら、きれいさっぱり足を洗うつもりだ。

あとは時々講演だの著述だの(どうせほとんどゴーストライターが書くんだが)で悠々自適といこう。

冗談から始まった出鱈目な人生とも、これでやっとおさらばだ。

……おや、こんな時間に誰だろう?

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