俺は買い物帰りで、寮のエレベーターに乗っていた。
荷物で両手がふさがった状態で、誰だかよく知らない日系人の男に蹴りを入れられて、なぜか荷物を手放して防御を取ることができずに、ひたすら痛みに耐えていた。
「やめろ…。何で急に…」
応えはなく、男はひたすら俺を殴ったりしていた。
エレベーターのドアが開いた。13階、俺の部屋。
俺はドアから飛び出して必死に逃げた。あの男はまだ追ってくる。
気づくとレストランにいた。ピアノが置いてある、上品な店だった。
俺は丸テーブルの椅子に何を注文するでもなく座っていて、近くに俺と同じくらいの歳の女の子ともう一回り年上の女性が座っていた。
レストランの注文はいつも苦手だ。日本でも苦手なのに、この国のレストランは大抵、初心者にもわかりやすいメニューというものを用意していない。
あの女の子と同じものを言おう。それが簡単だ。俺は彼女の注文に意識を集中させた。
ところが、ウェイターは俺のところには来なかった。
俺は飯を食いにここにきたのか?違う、ただ必死に逃げて、ここにたどり着いただけだ。
あの日系人の男はもう追ってきていないようだし、早く部屋に戻ろう。蹴られた腹がまだ痛い。
ここは一体どこなんだ?エレベーターを探そう。
俺は席を立って、出口を探そうと辺りを見渡した。
ピアノを見ると、あの女の子が演奏をしていた。声をかけたくなるくらい綺麗だったけど、今はとにかく部屋に戻りたい。
出口らしい階段が見えた。とりあえず行ってみよう。
蹴りを入れられた。あの日系人の男と言い、俺が何をしたっていうんだ?
二発目。どうにか避けた。
「Hey, what...」
言葉が続かない。
気づくとあの女の子が俺を背にして立ち、女の攻撃を受け止めていた。
女二人が格闘していて、俺は女の子の背に隠れる形で壁に追いやられていた。
「...Contract」
–––目が覚めた。実家の寝室だった。変な夢を見た。今は何時だ?
それにしても面白い夢だった。あのレストランは何だったんだろう。寮の13階にレストランなんてないのに。まあ、夢はしょせん夢だ。どこかに書き残しておこう。小説になるかもしれない。どんな設定がいいかな。俺は何かの理由で迫害されていたに違いない。
そんなことを考えながらリビングに向かうと、ピアノの自動演奏が有効になっていて、綺麗な曲がかかっていた。
待てよ、なんで俺は日本にいるんだ?授業は明日からだ。なんで今頃になって気づいた?なんで飛行機のチケットを買ってない?
違う–––俺は寮にいたはずだ。日本に帰ってくる予定なんてなかった。だから飛行機のチケットも買う必要がなかったんだ。
なのになぜ今俺はここにいる?
焦りで気が狂いそうだった。
勝手口が開いた。
買い物袋を持った母。
「あ、起きたの」
「母さん、俺、帰ってきた記憶がないんだ。帰ってくるつもりなんてなかったんだ。きっと誰かが勝手に、俺が無意識のうちに飛行機に乗せて–––いや、そんなことありえない。きっと俺は全部自分でやったんだ。それで、記憶をなくしたんだと思う」
「そうだったの?帰ってきて何も言わずに寝ちゃうから、疲れてるのかと思ったけど」
「寝言で何か言ってなかった?」
「そうねえ…」
http://anond.hatelabo.jp/20160123092121 評 ちょっとハードボイルドを意識した簡潔な文体は読みやすくて良い。 しかし、読者に対する場面設定の提示は、あまりにも不親切ではっきりしない。 現...