2015-08-13

社員食堂

社員10名のデザイン事務所で働いている。

お昼はクリエイティブ職ということもあり、

各自各自タイミングで食べに行っている。

もちろん、社内に食堂はない。

そんなデザイン事務所の裏に、

からおじいさんとおばあさんのふたりでやっている食堂がある。 

洋食モリタ


これといって、特別に美味しいものがあるわけではないが、

ごくごく普通コロッケ漬物の白い沢庵が好きで、

私をはじめ多くの社員が通っていた。

そのうちに「洋食モリタ」は我々の中で「社員食堂」と呼ばれるようになった。

そんな「社員食堂」が明日で閉店することになった。

さっき、最後ランチを食べに行った時に「閉店の理由」を聞くと、

おじいさんとおばあさんが高齢ということもあるが、

おじいさんとおばあさんが働いている間は息子が働かないのだそうだ。

息子さんがいるという話は初めて聞いたので驚いた。


なんでも、40歳を過ぎてはじめてできた息子だったので溺愛していたが、

食堂も忙しくなり、思春期にはあまりかまってあげれなかったらしい。

それを30歳を過ぎた息子が恨んでいるそうだ。

「ボクが働かないのは親への復讐なんだ」

その言葉がおばあさんの胸に突き刺さったらしい。

食堂をやめたら、あいつも観念して働くかなーと思ってさ、はは、ははは」

おじいさんがコロッケを揚げながら教えてくれた。


「うちで良かったら面倒みますよ」と隣に座っていた社長が思いがけず答えていた。

「ありがたいんだけどね。プライドだけはいっちょ前でね、自分で探すといってきかないんだよ」

ご主人が悲しそうに笑っていた。


社長は「それはたくましいですね、それならきっと大丈夫ですよ」と答えていた。


我々は知っている。

社員食堂毎日毎日社員がやってきては社長文句を言っているので、

おじいさんにとっては「あそこはブラック」と分かっていたのだろう。


「寂しくなりますねぇ」

そのことが分かっていない社長は、泣きそうになりながら社員食堂の思い出に浸っていた。

それを見て老夫婦は微笑んでいた。

コロッケちょっとしめっぽかった気がした。

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