2015-06-05

うちの金魚の半生

うちの金魚は5歳である名前はあるが、個魚情報なので一応伏せておく。うちにやって来たときには生まれていたから、正確な誕生日はわからないけれど、まあとにかく大体5歳である金魚の年齢で5歳というと、まだまだ生きられそうに思えるが、実のところすでに寿命は近い。うちの金魚金魚すくいでよく見かける赤いやつではなく、背ビレのない、背中が丸みを帯びているあの形である。たまにテレビに映る何十歳のでっかい老魚とちがって、このタイプ比較的るい弱だし、体もそこまで大きくはならない。ましてうちの子はあまり食べずに育ったから、年のわりに貫禄がなく子供っぽくみえる。

でも小さいくせしてなかなか骨の折れる魚生を送ってきた。うちの水槽に来た当初は2匹の仲間と一緒に泳いでいたが、いつか彼らはこの世を去り、今では大きすぎる住処に1匹で生活している。氷水みたいに冷たくなった冬の水中で、じっと身を縮めるところなどを見ると、なんだか可哀そうになって、新しいのを連れてこようかとも考えるが、ついつい先延ばしにしていたら、数年にわたって彼をひとりぼっちにさせてしまった。ひどい飼い主だ。

彼の魚生に転機がおとずれたのは昨年の秋だった。ある日私が散歩していたら、金魚すくいをやっている店を偶然見つけたのだ。これはチャンスだと思った。彼の家に仲間をふやすべく、逃げまわる黒デメキンを私は必死の思いで掬い上げた。袋に入れられたデメキンが不安そうにきょろきょろするのもかまわず、駅への道を急ぎ、慎重に電車に乗り、2時間近くかかってようやく家に着く。水温を調整してからデメキンを解放してやると、はじめこそ2匹は戸惑った表情を浮かべたが、一晩すぎれば仲良しの兄弟のように水の中でぐるぐるたわむれていた。いよいよ彼の魚生に春がやってきたのだ。私はほほえましく2匹の姿を眺めた。

しかしそれは春ではなかった。長い冬の始まりだった。デメキンの体にぽつぽつと、白い点が散らばっているのをある時発見したのである。これは「白点病」と呼ばれる、金魚の命にかかわる大病で、私が以前飼っていた金魚の多くもこの病に敗れ去った。そして恐ろしいことに、白点病は他の金魚に伝染する。すぐさま治療薬を入れ、消毒用の塩を投入したものの、数日後には、カゼひとついたことのない彼の体にも白い点々が認められた。私は頭が真っ白になった。彼が死ぬなど考えたこともなかった。

日がたつにつれ2匹の体力は徐々に奪われていった。年嵩のため体力に乏しいのか、まず彼が水槽の底でじっとするようになる。まだ体の動くデメキンが、友の体を犯す白い虫(白点病の正体は寄生虫である。恐らくデメキンが持ってきてしまったのだろう)を、口で突いて取り払おうとする様子が私の胸を衝いた。それでも彼は動かなかった。私は覚悟を決めていた。

ヒーターを入れて水温を上げ、虫が死滅するのに一縷の望みをかけたけれども、ある朝起きたら、デメキンが底砂利の上に横たわっていた。元気だった方が先に逝ってしまった。迎えたばかりの友達をも彼は見送ることになった。黒色の落ちた小さな体のまわりを、ゆらゆらと泳ぐ彼は、水温上昇の効果があったとみえて少し回復したようだったが、涙を流しているように私の目には見えた。金魚感情なんかあるわけない。でもそう見ずにはいられなかった。

3匹の仲間と別れたうちの金魚は、きょうも水槽内を元気に泳ぎまわっている。白い点などもうどこにもない。あの後も幾度か死にかけたのに何もなかったかのようにまたひとりで生活している。不思議なやつだ。水槽を観察していると、エサを求めて口をぱくぱくさせてくるが、ごはんは一日一度・一つまみまで。金魚腹八分目長生きの秘訣である

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