2015-04-27

麻婆豆腐定食はじめました

 という惹句にひかれてよく前を通るけど利用したことは一度もないカフェへ入ったら、薄暗い店内に客が僕一人だったのはまあ時間帯的に仕方ないことだとはいスタッフ店長という風情でもない若けぇアンちゃんオンリーでさすがにカウンターだけだよなまさかこいつが調理するわけねえよなと不安半分で注文したら、まさしくそいつが器に米をよそいはじめて、そこでもう、うわ地獄かなってなるじゃないですか、ところが当の麻婆豆腐は予想に反してけっこう美味くて、費用対分量でいうコスパは悪いけれどもこの味は余店をもって代えがたいし定期的に通うのも悪くないなあ店員はやたら挙動不審だけどそれぐらい広い心で許してやろうじゃないか神様お客様ものと、うすらぼんやりとした頭でお昼ごはんのローテーションを組み直していたらカウンターでたえまない不審な挙動を見せていたアンちゃんが唐突に手でカメラアイを作りながら「写真取っていいスか?」と聞いてきて、は? となるとアンちゃん壁の方を指さして「壁にはらしていただきたい」とか抜かすんで振り向いてみればなるほどいままで気づかんかったがカフェ飯をついばみながら半笑いを浮かべる客たち(彼らもどうしたらいいかわからなかったんだと思う)のモザイクアートが一面にドン引きするほど蝟集しておりなんていうかアットホーム感というよりホラーハウス感だろサイコパス殺人鬼の部屋じゃないんだから、としばらく言葉を失ってしまったせいで断るタイミングを逸して結局フレームにおさまり目出度く被害者リストの一員に名をつらねたわけだけれど、まあそれだけで気分は事後ですよね強姦されたようですよね、そんな半ば放心したような気持ちで「お会計……」と告げるとアンちゃんはハツラツした笑顔で「ありがとうございましたー」と金受領していき、のみならず「ところでお客さん、◯◯大学カフェから最寄りの大学)の学生ですか?」と個人情報まで徴収しようと目論んできやがるので一点の曇りもない悪意でもって国立死ね大学死ね学部死ね学科所属で専攻はお前であると言い放って逃げようかとも思ったが、相手の無知と無私と無神経を併せ持ったものけが使える天真爛漫なスマイルをみるに『オールド・ボーイ』(パク・チャヌク版)

リファレンスを有しているか微妙だったので「まあ、◯◯大学ですけど……」と臆病なオオアリクイのように震えながら答えると「そうなんですか! 俺もなんですよ!」と返してきていよいよ知るかだからどうしたクソがという乙女のような気持ちで胸いっぱいになったのですがそこはオオアリクイなので「そうなんですか〜ごちそうさま〜」と無難だかコミュ障だかなんだかわからないお別れを残して店から出、胃袋のあたりでうずまく麻婆豆腐特有のあのぎゅるぎゅるを聞きつつ、もう二度と来ない、来るもんか、と誓い、明日へと向かって力強く踏み出して七歩目あたりで結局あのアンちゃんはバイトだったのか店長だったのか、そんなことが妙に気になりだして眠れなくなった。

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